添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
見出しの工夫
論文を添削しているとき、まず飛び込んでくるのは見出しです。見出しは、どこに何が書いてあるかを読み手に伝える標識のようなものです。この標識の情報が多いと、道を見失ったり、事故を起こしたりと案内機能が損なわれてしまいます。
そうなると、見出しは端的に記載内容が分かるように工夫すべきです。では、分かりやすい表現とはどのようなものでしょうか?オススメの方法は、「フレーズを2つ以内にする」を意識すると良いと考えています。
例えば、災害に関する課題の場合、「防災対策の省力化」、「想定を上回る自然災害への対応」といった具合になります。解決策も同様に、「i-Constructionの導入」、「グリーンインフラのビルトイン」といった具合にもっとシンプルになりますね。
このように、必須科目や選択科目は、工夫次第で端的に示すことができますが、比較的長くなりがちなのが選択科目Ⅱです。どうしても制度名や事業名を見出しに持ってきたい場合があり、例えば「PLATEAUを活用したシミュレーションの実施」など制度名自体が長いので見出しも長くなりますが、これはやむを得ないでしょう。ただし、2行になってしまう場合は、さすがに工夫が必要です。先の例で言えば、「PLATEAUの活用」という具合に1フレーズにするなど対策を施しましょう。
加えて、気になるのが見出しに読点「、」を用いるケースです。長くなることを防ぐため、2フレーズ以内と紹介したので大丈夫だと思いますが、原則読点を用いることは避けましょう。また、当たり前ですが、見出しには設問に対応した付番が必要になります。ただし、この付番にもルールがあります。一般的なルールを紹介すると、1>(1)>①になりますので、改めて確認してみてください。
最後に、これも実施できている人がほとんどですが、見出しに下線を引くととても見やすくなるので、是非取り入れてください。本番は、手書きですので、定規を忘れずに持参しましょう。
論文
本日お届けするのは、建設部門 令和6年度選択科目Ⅲ 予想問題 「渇水への対応策」チェックバックになります(前回の論文はコチラ)。これから、台風シーズンに突入しますので、水害が発生しないことを願いつつ、しっかりと添削を行ってみましたので、早速論文をみてみましょう。
問題
(1) 気候変動による渇水への対応策を講じるにあたって,技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し,それぞれの観点を明記した上で、課題の内容を示せ。
(2) 前問(1) で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題の解決策を複数示せ。
(3) 前問(2) で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
課題
1.多面的な観点から課題を3つ
(1)いかに分野横断的に進めるか:複合的対策観点
我が国においては急流河川が多いことに加え、都市化の影響により河川への流出速度も速いことから、相対的に渇水リスクが高い。さらに、無降水日は増加傾向にあり、山岳における積雪量が減少するなど、渇水を引き起こす要因も増えている。一方、洪水リスクも上昇しており治水対策とのバランスを勘案すると、様々な分野で対策する必要がある。よって、複合的対策の観点①から、いかに分野横断的に対策を進めるかが課題である。
① 課題が「分野横断的」であるなら、観点は「体制面の観点」ですね。
(2)いかに渇水リスクを検証するか:技術面の観点
気候変動によって降雨強度や、頻度に変化が生じている。渇水対策を行うには、この変化に対応することが必要である②。近年、将来予測降雨の解析技術が発達してきているが、精度については未知数な部分がある。正常時から対策を講じる時に住民にリスクを認知してもらうことが必要であり、そのためには高精度な解析技術が必要不可欠である③。よって、技術面の観点から、いかに渇水リスクを検証する④かが課題である。
② 問題文には「気候変動による渇水への対応策を講じるにあたって」とあります。この記述の内容は、問題の前提条件ですので記述の必要性に疑義があります。
③ まず、「最初の正常時から対策を講じる時に」という表現が分かりづらいです。タイミングを表しているのですが、正常時なのか対策を講じる時なのか判然としません。また、渇水リスクの検証を課題としているのに、予測の必要性を住民認知としていることにも違和感があります。
④ 前段の背景では「解析精度の向上」に関する記述はありますが、「渇水リスクの検証」について何も書かれておらず唐突感があります。同様に、渇水リスクの検証とはどのような行動なのか不明確であるため、課題設定としてふさわしいのか判断できません。
(3)いかに地域と合意形成を図るか:環境の観点
気候変動の影響で、降水量や蒸発散量がこれまでと変化している。また、地域ごとにもバラつきがあることから、渇水リスクの予測がより困難になっている。そのため、一定の効果を発現できるハード対策の重要性が高まっている⑤。一方で、対象地域が景勝地や貴重生物の生息地の場合、整備による影響を地域住民に理解してもらう必要がある。よって、環境の観点から、いかに地域と合意形成を図るかが課題である⑥。
⑤ 課題は、地域との合意形成となっていますが、この内容は合意形成との関連性が希薄です。無くても良い情報です。仮に書くにしても、もっと端的に述べないと主張がぼやけます。⑥ 整備に対する住民の理解は、渇水対策に限らず共通した留意点です。さらに、景勝地や生物の生息地といった条件が満たされた場合のみの問題点になっています。間違いではないのですが、もっと渇水対策を焦点化する内容が望まれます。
例えば、地域住民の関係性で言えば、「渇水対策は水利用の調整、水のリサイクル、節水など地域の協力が不可欠」といった論調が考えられます。この場合の課題は、「体制面の観点から、いかに地域住民との協力関係を構築するかが課題」といった具合になります。
一方、環境に配慮した整備を主張するのであれば、地域環境を保全することや生物多様性の必要性をもっとしかりと述べる必要があります。この場合の課題は、「環境面の観点から、いかに地域特性に配慮して整備を進めるかが課題」といった具合になります。
解決策
2.最も重要な課題と複数の解決策
安全と公益を確保するため⑦、「いかに分野横断的に対策を進めるか」を最も重要な課題に選定し、以下に解決策を示す。
⑦ 他の課題にも合致する理由になっています。例えば、「災害対策にも寄与し安全性を高める効果があることから」といった具合に当該課題のみが該当するように少し絞り込むと良いでしょう。
(1)雨水貯留施設の整備
調整地および建物敷地内の雨水貯留施設の整備を行い、貯留水を活用する。具体的には、住民が各家庭や公共施設で使用する生活用水を賄う⑧。渇水対策のみならず、豪雨時の治水施設としても活用できるため、渇水面および治水面の両面で活用できる⑨。
⑧ 冒頭にこの理由を持ってくると、雨水貯留が横断的な取り組みであることを理解しやすと思います。→「調整地および建物敷地内の雨水貯留施設の整備を行い、渇水面および治水面の両面で貯留水を活用する」
⑨ 具体的とありますが、具体性に欠けます。例えば、「家庭では、雨どいに雨水貯留タンクを設置し、庭への散水などへ利用し、公共施設では地下ピット等の貯留水をトイレ洗浄水、消火用水、洗車用水など中水として利用できるよう設備更新を行い、渇水期の節水効果を高める。一方、これらの降雨時は雨水調節機能を発揮させ、洪水被害の発生を抑制する。」と言った具合に詳細を述べましょう。ここは、技術力を示す場面なので、もっと良い例をご提案いただければと思います。
(2)砂防堰堤の活用
砂防堰堤の主な機能は、土砂流出の抑制だが、下記のように活用して限りある水を最適配分することで、渇水を防ぐ。
①貯留水の活用:堰堤機能に支障の無い範囲⑩で、堰堤の貯留水を一時的に農業用水や水道用水等で利用する。
②利水の効率化:砂防堰堤は山岳地に位置していることが多く標高が高いため、越流水の位置エネルギーを活用して電力に変換する。このような利水の効率化により、渇水リスクを軽減する⑪。
⑩ 技術力を示すために「堰堤機能の支障のない範囲」、つまり運用方法も書いた方が良いでしょう(次のダムと同じ)。また、この運用を実現するために必要な整備があれば追記すべきと考えます。スペース的に難しいのであれば、重要なものを吟味し対策を削減しましょう(量より質を重視しましょう)。
⑪ 発電事業を行うことは堰堤の有効利用であることは理解できますが、なぜ渇水対策なのか理解できません。渇水効果を発現する仕組みを説明する必要があります。
(3)デジタル技術の活用
下記のように、デジタル技術を活用し、渇水を防ぐ。
①気象予測技術によるダム運用の高度化
高精度・高頻度・高解像度の気象予測が可能な「JWA統合気象予測」を用いる⑫。更に、ダムの嵩上げ、放流管の増設および指定流量の放流が可能なゲート機能強化⑬などのダム再生を行い、洪水調節機能を強化する。この気象予測技術とダム再生の組み合わせで、ダムを弾力的に運用する。具体的には、上述の気象予測技術による予測雨量をもとに流域内の各ダムの貯水量を把握し、渇水対策に必要な貯水量を確保する。流域内のダムは1つのダム群として上下流で水を融通し合うなど、流域全体で最適に管理する。また、この考え方は、治水面でも活用できる⑭。
⑫ 何に用いるのか、どのように用いるのかといった内容を記述しましょう。
⑬ ゲート機能の強化はその目的が記載されていますが、ダムかさ上げ、放流管の増設には目的がないので補記すると良いでしょう。
⑭ これも、⑧と同様に項目の冒頭で述べると良いでしょう。
- ダムは良く書けていますので、このレベル感で他の項目も記載すると良いと思います。
②農業用水の水管理
ICTを活用して、農業用水の給水管理を行う。具体的には、スマホ等で圃場の水位管理および給水栓を自動制御し適切に給水管理を行う。このような利水の効率化により、渇水リスクを軽減する⑮。
リスク
3.新たに生じうるリスクと対応策:以下へ示す。
懸念事項は、上述の解決策を講じて渇水リスクが低減することによって、住民1人1人の節水意識が低下してしまうことである。対応策は、ソフト対策も充実させることである⑯。具体的には、渇水対応のマイ・タイムラインを作成し、定期的に啓発活動を続ける⑰ことで日頃の行動を改善する習慣を付ける⑱。 以上。
⑯ ソフト対策では、あまりに抽象的です(スペースがもったいない)。後述の具体策から書いて良いでしょう。
⑰ 啓発活動がどのような内容なのか分かりません。ここも具体化しましょう。
⑱ 対象は住民なので、「習慣を促す」