令和6年度 建設部門 選択科目Ⅰ 解説②
【 技術士 二次試験対策 】
こっちを選択した猛者たちへ
前回お届けした「災害復旧におけるDX」 徹底分析において、災害の方が解答しやすいと申し上げたところです。しかし、そんなことは意に介さず、「シームレスな拠点連結型国土」 を選択した人もいると思います。もちろん、国土形成計画に着目し、造詣が深い人にとってはチャンス問題と言えます。
また、良く良く見てみれば、国土形成計画については、リード文で説明されているので、単純に言えばネットワーク強化を語ればよく、災害よりも様々な課題設定や解決策を受け入れる懐の深さがあるようにも見えます。簡単に言うと、どんな知識でも当てはめやすいといった特徴があります。
具体的に言えば、「地域の整備(コンパクト+ネットワーク、農山漁村、条件の厳しい地域への対応等)、「産業(国際競争力の強化、エネルギー・食料の安定供給等)」、「文化・スポーツ及び観光(文化が育む豊かで活力ある地域社会、観光振興による地域活性化等)」、「交通体系、情報通信体系及びエネルギーインフラ」、「防災・減災、国土強靱化」、「国土資源及び海域の利用と保全(農地、森林、健全な水循環、海洋・海域等)」、「環境保全及び景観形成」といった多種多様な取り組みが、国土形成計画には記載されています。
まさに、なんでもござれです。正直何を書いても大丈夫そうです。冷静に見るとこっちの選択の方が有利なのではないかと感じてしまいます。一見して限定的な知識を問う問題に見えますが、必須科目にふさわしい幅広い技術を問う問題と言えますね。こっちだったかぁ・・・
問題文
Ⅰー1 国が定める国土形成計画の基本理念として、人口減少や産業その他の社会経済構造の変化に的確に対応し、自律的に発展する地域社会、国際競争力の強化等による活力ある経済社会を実現する国土の形成が掲げられ、成熟社会の計画として転換が図られている。令和5年に定められた第三次国土形成計画では、拠点連結型国土の構造を図ることにより、重層的な圏域の形成を通じて、持続可能な形で機能や役割が発揮される国土構造の実現を目指すことが示された。
この実現のために、国土全体におけるシームレスな連結を強化して全国的なネットワークの形成を図ることに加え、新たな発想からの地域マネジメントの構築を通じて持続可能な生活圏の再構築を図る、という方向性が示されていることを踏まえ、持続可能で暮らしやすい地域社会を実現するための方策について、以下の問いに答えよ。
(1)全国的なネットワークを形成するとともに地域・拠点間の連結及び地域内ネットワークの強化を目指す社会資本整備を進めるに当たり、投入できる人員や予算に限りがあることを前提に、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。(※)
(※)解答の際には必ず観点を述べてから課題を示せ
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
解説
リード文
国が定める国土形成計画の基本理念として、人口減少や産業その他の社会経済構造の変化に的確に対応し、自律的に発展する地域社会、国際競争力の強化等による活力ある経済社会を実現する国土の形成が掲げられ、成熟社会の計画として転換が図られている。
さすが国土形成計画、幅広い分野における目標が掲げられています。これは、以下に示す第3次国土形成計画に示されている「時代の重大な岐路に立つ国土(我が国が直面するリスクと構造的な変化)」や「目指す国土の姿」を抽象的に表現した一文と言えます。この文面は国土形成計画に載ってるアレだよと誘導してくれているようなものです。さらに、端的に国土形成計画を説明してくれているのですから、親切な問題です。
令和5年に定められた第三次国土形成計画では、拠点連結型国土の構造を図ることにより、重層的な圏域の形成を通じて、持続可能な形で機能や役割が発揮される国土構造の実現を目指すことが示された。
さらに、追い打ちをかけるように国土形成計画の説明が続きます。重ね重ね親切な問題です。最初に注目するキーワードは、「拠点連結型国土の構造」です。これは、国土構造の基本構想 「シームレスな拠点連結型国土」を指し示すものです。
つまり、「デジタルとリアルの融合による『活力ある国土づくり』」、「巨大災害、気候危機、緊迫化する国際情勢に対応する『安全・安心な国土づくり』」、「世界に誇る美しい自然と多彩な文化を育む『個性豊かな国土づくり』」です。これをそのまま、課題設定して、得意な分野を選択して解決策を述べればゴールですね。こりゃ、国土形成計画を知っている人からするとものすごいサービス問題と言えます(不公平だ!!!)。
二つ目のキーワードは、「重層的な圏域」です。これも、国土形成計画にバッチリ載っています。いわゆる「広域レベルからコミュニティレベルまで重層的な圏域形成」です。この重層的な圏域は、「広域的な機能の分散と連結強化」と「持続可能な生活圏の再構築」により形成されます。具体的に言うと、リニア新幹線による日本中央回廊と地域コミュニティ再生ですね。
この実現のために、国土全体におけるシームレスな連結を強化して全国的なネットワークの形成を図ることに加え、
ここにきて、ようやく「シームレス」が登場です。「シームレスな連結ってなんだよ」と言いたくなるくらい分かりにくい表現です。キャッチフレーズにしては何も伝わってこないという恐ろしいキーワードです。上記の図には、シームレスな拠点連結型国土という基本構想の右わきに「デジタルの徹底活用による場所や時間の制約を克服した国土構造への転換」と説明書きがあります。よって、まあ簡単に「デジタルの徹底活用による場所や時間の制約を克服した連結」と言い換えられるのではないでしょうか。
新たな発想からの地域マネジメントの構築を通じて持続可能な生活圏の再構築を図る、という方向性が示されていることを踏まえ、持続可能で暮らしやすい地域社会を実現するための方策について、以下の問いに答えよ。
この文面は、これまでと同じ説明が繰り返されているだけですね。重複表現なので減点!と言いたいところですが、広域レベルからコミュニティレベルまで重層的な圏域形成が重要だということを親切に教えてくれていると捉えましょう。
問(1)
(1)全国的なネットワークを形成するとともに地域・拠点間の連結及び地域内ネットワークの強化を目指す社会資本整備を進めるに当たり、投入できる人員や予算に限りがあることを前提に、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。(※)
(※)解答の際には必ず観点を述べてから課題を示せ
(1)の設問になると急に、ネットワークということが明記されています。しかも、何のネットワークなのか分かりません。ただし、リード文と国土形成計画を踏まえると「交通とデジタルに関するネットワーク」と推測できます。このネットワークの特定が、この問題の最大の難所といえます。
また、ネットワークの視点は、全国>地域間>地域内と広域から地域内まで幅広く言及する必要があります。すべてを網羅するのは、スペース的にかなり難しいと思いますので、いくつかをピックアップして課題を述べることになりそうです。そういう捉え方をすると、やはり懐の深い問題といえます(書きやすい)。
さらに、重要なのは、社会資本整備を進めるに当たりという部分です。国土交通省では、道路、鉄道、空港、港湾、公園、水道、下水道、河川、砂防などの事業を社会資本整備事業と定め(社会資本整備重点計画法第2条第2項各号)ています。つまり、インフラ整備です。ハードです。この条件を満たすことに注意が必要です。
また、災害でも全く同じ表現がされていましたが、投入できる人員や予算に限りがあることを前提にせよとの条件がありますので、これまた注意が必要です。これらをまとめると、省人化、省力化、効率性・生産性の向上を図りながらハード整備するための課題設定が望まれます。
(※)の注意書きは、災害と同様ですね。まあ、いつものパターン「○○の観点から、××が課題である」が駆使されていれば問題ないですね。
問(2) 【再掲】
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
これは、いつも通りですね。重要と考えた理由を端的に添えるとGOODです(無くても可)。解決策については、具体策をたくさん書けましたかね?具体策が無い解決策は、一般論に見えてしまうケースが多いです。具体策=技術力なので、ここが充実しているかが合否の鍵といっても過言ではないと考えています。
みなさんの解決策には、具体例が書いてありますか?よくやってしまうのが、施策の説明を始めてしまうパターンです。解決策なので施策の説明というより、より具体的な行動を書く方が評価されると考えます。
また、解決策が重要であることから、その文量も1枚以上のスペースを用いて記載されていることが望まれます。もちろん、量よりも内容であることは言うまでもありません。しかし、質の高い解決策を書くということは、必然的に具体例がしっかりした内容、充実した内容ということになりますので、結果として1枚分は費やしてしまいます。
さらに、チェックポイントとしては、ご自身で提案した課題に即した解決策になっているかが重要です。課題と異なる解決策になっている場合、論点ズレということでこれまた減点対象となってしまいます。よって、課題に対する解決策になっているか要チェックです。
問(3)~(4)
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
はい、これもいつもと同じですね・・・違ーーーう!いつもと同じじゃないです!!波及効果が復活しています。添削では、令和5年度では「波及効果がなくなっていますよ」と暗にもう出ないよとの指摘をしてきた身としては立場がありません。しかも、必須科目Ⅰー2は波及効果がありません。もう、統一してよ…
あとの注意点は、「すべての解決策を実行して生じる懸念事項」という条件を満たすことです。最初からあるリスクや、解決策とあまり関係のないリスクは、適切とは言えません。ご自身の論文がどのような表現になっているのか要チェックです。
(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
これも、いつもどおりです。お決まりの文句でも書いておけばOKです。