添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
農業部門の論述のポイント
技術士二次試験の必須科目Ⅰでは、農業を取り巻く社会課題を俯瞰し、政策動向を踏まえて論理的に記述する力が問われます。特に近年は、農林水産省が進めるデジタル化、気候変動対応、担い手確保といった重点施策が、試験テーマと極めて親和性の高い領域となっています。そこで、最新の政策トレンドを踏まえ、答案で押さえるべき視点を整理します。
まず重要なのは、農業DXの加速です。農林水産省は、MAFFアプリを活用した病害虫診断、IoTによる水門管理自動化、データ活用による経営改善など、現場での実装事例を積極的に紹介しています。これらは単なる技術導入ではなく、労働力不足や生産性向上といった構造課題の解決策として位置づけられており、答案では「課題→DXによる解決→期待効果」という因果構造で整理することが有効です。特に、スマート農業は国の「農業DX構想2.0」によって政策的後押しが強まっており、ロボット農機、ドローン、AI予測などの活用は、将来展望を述べる際の重要な論点となります。
次に、研究イノベーション戦略の動向も押さえておきたいポイントです。農林水産省は「農林水産研究イノベーション戦略2025」を掲げ、生成AI、ゲノム編集、スマート育種など、技術が政策を牽引する未来像を示しています。特に、育種の高速化や環境負荷低減技術は、食料安全保障やカーボンニュートラルといった国家的課題と直結しており、答案では「技術革新が農業の持続性を支える」という視点が求められます。
さらに、気候変動への適応は、農業政策の最重要テーマの一つです。猛暑や大雨の増加により、作物品質の低下や収量減少が顕在化しており、農林水産省も適応策の強化を強調しています。高温耐性品種の導入、施設の高温対策、水管理の高度化など、現場レベルの対策を政策と結びつけて論じることが、説得力のある答案につながります。また、気候変動は単なる環境問題ではなく、農業経営のリスク管理そのものであるため、「レジリエンス強化」というキーワードも有効です。
総じて、必須科目Ⅰでは、農業の現状課題を単に列挙するのではなく、最新の政策動向と技術革新を踏まえ、課題解決の方向性を論理的に示すことが求められます。農林水産省の施策は、試験で問われる視点と極めて整合性が高いため、日頃から政策資料や最新の取組事例に触れ、背景・課題・解決策を体系的に整理しておくことが合格への近道となります。
食料安全保障
この問題文(問題文「R7必須科目Ⅰー1」はコチラ)は、要するに「食料安全保障は農業と農村が元気じゃないと始まらない」という王道メッセージなのですが、あまりに正論すぎて、もはや“農政の三種の神器”みたいな風格すら漂っています。輸出で稼ぎ、環境と仲良くし、持続的に回る食料システムをつくる…まるで農政の“全部盛り定食”のようで、読み進めるほどにお腹いっぱいになるところが微笑ましいです。それでは、早速論文を見ていきましょう。
1 【食料安全保障を実現するために必要な課題整理】
我が国の食料安全保障を実現するために必要な課題を以下の3つの観点から整理した①。
1.1 「持続的な食料システム」の観点②
「持続的な食料システム」の構築では「農業の担い手減少と高齢化」が最も重要な課題と考えられる③。現在、出生率が低下し、若年層が減少しているが、その中でも農業は気象条件に起因する所得の不安定さや過酷な労働環境などで新規就農者が減少している。基幹的農業従事者数も1999年:約250万人から、2025年:102万人と顕著に減少し、その平均年齢も60歳代と高齢で推移している状況である④。
① これは問題の条件を繰り返しているだけです。スペースがもったいないので不要です。
② 基本的なことですが、採点者が読みやすくなるように見出しには、下線を引くことをお勧めします(コンピテンシーにある「明確かつ包摂的な意思疎通を図り」に該当します)。さらに、見出しなので観点というより、求められている課題を端的に表現した方が良いでしょう。また、「持続的な食料システム」は、問題文では「場面」として扱われており、これを観点とすることに違和感があります。さらに、「観点を明記したうえで、その課題 の内容を示せ」とあるので、文中にも観点を書いた方が良いでしょう。※以下同様。
③ ビジネスシーンでは、結論から述べるというのが鉄板ですが、課題のパラグラフにおいては、序論・本論・結論、起承転結といった具合に順序だてて説明することをお勧めします。必須科目Ⅰや選択科目Ⅲでは、現状→問題点(→必要性)→結論といった構成が鉄板です。また、課題とは問題を解決するために取り組むべき具体的な行動を含みます。「担い手の減少や高齢化」は問題点であり、課題ではありません。課題にするなら、「担い手確保」といった具合になります。
さらに、「担い手確保」という課題であっても、「持続的な食料システム」というシーンにおいて課題になりうるのかも疑義があります。これは、「労働力の持続性」の一部に過ぎず、システムに言及しているのかといった疑問になります。システムですから、多角的な要素によって説明されるべきであり、労働力という一側面で述べているのも、物足りなさを感じる要因です。加えて、労働力不足と言いう一般論から脱却できておらず、技術課題と言えるのかといった点も気になります。人材面の観点で述べるのであれば、若年層減少(現状1)→デジタル技術進展(現状2)→デジタル技術の活用が進まず持続的な食料システムの構築に支障となっている(問題点)→人材面の観点からスマート農業技術の導入が課題(結論)といった論述展開が一つの形でしょう。参考に検討してみてください。
④ これらはすべて現状であり、何を問題視しているのかが分からず、課題との接続が弱いです(そもそも課題になっていませんが…)。つまり、この文章は「現状説明」で止まっていて、問題点も課題も分かりません。
1.2「海外から稼ぐ力」の観点
農業では人口の減少による国内需要の減少が想定される⑤。このため、収益力向上には農産物輸出の増強が必要である⑥。これには高付加価値の新品種育成や植物防疫、残留農薬での管理体制の改善・整備などにより国際競争力の向上を図ることが重要な課題⑦である。この他、新品種の輸出に際しては、その国際的な権利保護・管理も重要な課題となる⑧。
⑤ 最初の課題と構成が違いますね。読みやすさから言って、統一した方が良いでしょう。お勧めの構成は前述のとおりです。さらに、「農業では」との表現が引っかかります。「農業では」は通常、農業分野の内部で起きること、農業の現場での課題を導くときに使います。しかし、ここで述べているのは“人口減少 → 国内需要減少”というマクロ経済の話であり、農業内部で起きる現象ではありません。よって、「農業では」と内容がかみ合っていないです。しかも、国内需要が何を指しているのかも分からず、「農業では」としているにも関わらず、農業分野固有の問題に見えません。たぶん、言いたいことは「人口減少に伴い国内の農産物需要は縮小が見込まれる」といったことですかね。
⑥ 誰の収益力なのか、なぜ内需拡大ではなく輸出なのかが分かりません。単に、海外から稼ぐ力という問題の条件に合わせただけに見え、合理的な説明に欠いています。
⑦ いくつも方法が示されており、すべてが課題なのでしょうか。問題には、一つずつと書いてあるのに、たくさん書いてしまっては問題の条件を満たしていません。
⑧ ⑦だけでも多いのにさらに課題を書いてしまっています。どれが課題なのか読み手は理解できませんし、⑦のとおり問題の条件を満たしていません。
1.3「環境負荷軽減」の観点
「環境負荷低減」では、温暖化ガスの発生に伴う気候変動の激甚化の面から、炭酸ガス、メタン、亜酸化窒素などの温暖化ガスの排出抑制が課題と考える⑨。例えば、水稲栽培では湛水条件でメタン発生が顕著であることから、中干し延長などの発生抑制のための対策が実施されている⑩。
⑨ 温室効果ガスではありませんか。また、「環境負荷低減では」という書き出しが、また気になります。表現として正しいのは、「環境負荷低減の観点から」ですね。ただし、観点としての正しいかは、前述の通り疑義があります。さらに、環境負荷の低減という問題の条件は満たすものの、題意である「平時からの食料安全保障を実現するために必要な対策」になっていないと思います。これらを課題とするなら、「なぜそれが環境負荷低減の阻害要因なのか」「どのように食料安全保障に影響するのか」という説明が必要です。
⑩ 「中干し延長」は“対策”であって“課題”ではないないと思います。これでは、「課題→温暖化ガス排出」「例→中干し延長という対策」となっていて、課題と対策が混在しています。「課題を示せ」と言っているのに対策を書いていると採点者に判断されてしまいます(対策は、解決策のパラグラフで書くべきです)。課題全体を通して、題意に即した解答になってません。
2 【最重要課題の選定とその解決策】
食料安全保障では、農業での労働力不足が深刻であることから⑪、最重要課題は持続的食料システムの構築の「農業の担い手減少と高齢化」と考えられる。その解決策は、以下のようなものが想定される。
⑪ 「労働力不足が深刻である」という“状況説明”で止まっていて、「だから最重要課題だ」と言えるだけの理由づけになっていません。理由ですから、3つの相対評価であったり、 “なぜ重要か”をもっと踏み込んだりと「最も」である理由を説明しましょう。
2.1 ロボット化・自動化等での省力化・軽労化
担い手の減少・高齢化に伴い、従来より少人数で作業をこなすには、農作業の自動化、ロボット化の推進による省力化、軽労化が必要である⑫。現在、直進アシストトラクタや収穫、除草のためのロボットの利用やドローンの薬剤散布への活用などが導入されている⑬。
⑫ 解決策の記述を求められているのですから、必要性ではなく“やること”を書きましょう。「省力化・軽労化が必要」というのは“方向性”であって、“やること”ではありません。試験で求められるのは、「何を導入し、何を整備し、何を実施するのか」という具体的な行動です。よって、解決策のパラグラフは、目的→やること→具体例(・・・のため、・・・をする。具体的には・・・。) といった構成で記述することをお勧めしています。
⑬ 例示を書くのはとても良いのですが、総花的に羅列しただけで、何がどう効果を発揮するのかが伝わらないです。自動化とロボット化を区分・整理する、効果をきちんと整理する、課題にどう効くのかを明記するなど、例示を通じて解決策を深堀りし、羅列ではなく論理的な説明としましょう。
2.2 農地区画整備などによる圃場の大規模化
日本国内には小区画の農地が多く存在し、大きな農機が使用できない場面も多く非効率である。このため、区画整備などにより農地を大区画化⑭、整備することでより大型の農機で効率的な農作業が可能となり、省力化が図られ、人員不足への対応が可能となる⑮。
⑭ 解決策としては、単に「大区画化する」ということのみしか書かれておらず、どうやって大区画化するのかをもっと詳しく書かないと解決策として不十分です。この場合、区画整備(圃場整備のことですかね?)の部分をもっと詳しく書くべきです。
⑮ 小区画だから大きな農機が入らない→大型化して大きな農機が入る では当たり前の帰結です。つまり、論理が浅く、読み手に“なるほど”と思わせる力が弱いです。文章の方向性は正しいのに、「課題の本質」も「解決策の本質」も書けていないため、“当たり前のことを言っているだけ”に見えてしまいます。
2.3 ICT活用による熟練農業者技術のみえる化
農作業をデジタル情報化、見える化することで農作業初心者でも農業分野に参画し、的確な栽培管理が可能となり、農業従事者の増加が見込める⑯。例えば、統合型環境制御装置の導入によるデータ駆動型栽培管理などが方策として有効と考えられる⑰。
⑯ 読み手は「どうしてそうなるの?」と感じてしまいます。これは、2つの飛躍があるからです。1つ目は、ICTで見える化できるとなぜ栽培管理が的確になるのか、2つ目は栽培管理が的確になるとなぜ農業従事者が増えるのか、この2つの仕組みを説明しないと共感できません。特に2つ目については、栽培管理が的確になることは生産性向上の話であって、従事者増加の話ではないので、因果は成立していないですね。
⑰ これがなぜ「見える化」なのでしょうか。「データ駆動型栽培管理」=“高度な制御”の話であって、“見える化”の例示になっていないと思います(統合型環境制御装置は“制御”が主目的であり、見える化は副次的機能)。見える化とは本来、熟練者がどのタイミングで、どの環境条件を見て、どんな操作をしたかをデータとして可視化することではありませんか。ここら辺の説明がないので、“見える化 → 初心者でもできる”という因果を支える説明になっていないと思います。
3 【新たに生じうるリスクとその対策】
3.1 新たに生じうるリスク
3.1.1 スマート機器へのサイバー攻撃による誤動作
スマート機器では、高度なデジタル化により、サイバー攻撃や通信障害で機器が誤動作することがリスクと想定される⑲。
⑲ ここも「では」の使い方に違和感があります。癖になっていますので、「では」の使い方を今一度確認した方が良いでしょう。さらに、“スマート機器”が何を指すのか不明確で、スマート農業のことを指すのであれば、提起した課題のどれに該当するのかもよく分かりません。さらに、大区画化という解決策に対応していないことも気になります。
3.1.2 気候変動による最適機器・技術の変化
気候変動による使用環境の変化により、適する機器や技術が変化することがリスクと想定される⑲。
⑳ さすがに説明が浅すぎて、何を言いたいのか読み手に伝わらないです。気候変動がどう関係しているのか、適する機器や技術が変化するとは一体どのような現象なのか、総じて説明不足です。気候変動がどのように機器の性能・適性に影響するのかを具体的に説明する必要があります。
3.2 新たに生じうるリスクへの対策
対策としては、セキュリティ対策の拡充と継続的な技術情報の収集が必要と考えられる㉑。
㉑ リスクは2つ挙げているのに、対策は1つしか書かれていません(サイバー攻撃 → セキュリティ対策、気候変動 → ??(対策なし))。さらに、セキュリティ対策の拡充、技術情報の収集これは“方向性”であって、対策=やるべき行動にはなっていないです。もっと具体的に書きましょう。抽象的な表現では、一般論に見えがちです。技術力=具体性と心得てください。
4 【業務遂行において必要な要件】
4.1 技術者としての倫理の観点
技術者は社会の公益性に配慮して事業を進めることが必要である㉒。特にスマート農業技術導入等では整備対象機器のデータ等、客観的事実に基づき、考えうるすべての関係者に対してリスクとベネフィットを十分に誠実に説明し、協働して進めることが必要である㉓。
㉔ 「負の影響を多面的に低減する」が抽象的すぎます。どのような負の影響?、どのように低減する?、何を検討する?といった説明がなく、共感できません。
㉕ これも同じです。何について合意するのか?、誰と合意するのか?、どのように合意形成を進めるのか?が書かれていません。
㉖ これも、なぜ「特に」なのか分かりません。また、「周辺環境への影響」が何を指すのか分かりません。総じて、抽象語が多く前述の内容との接続も弱いです。

