添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
国土形成計画と二地域居住
本日お届けする添削LIVEは、予想問題 第3弾で取り上げた「二地域居住」をお届けします。早速、論文投稿いただき、ありがたい限りです。建設部門の必須科目は、持続可能な建設業として「担い手確保」、「働き方改革」が強すぎので的を絞る人も多いと思いますが、合格の可能性を高めるためには多様な論文を用意すべきということは言うまでもありません。
そこで、次善策として有力と考えているのが、本日の「二地域居住」になります。二地域居住に関しては、国土審議会 推進部会移住・二地域居住等促進専門委員会の中間とりまとめが、2024年1月19日に示されています。この中間とりまとめの冒頭には、次の記述があります。
新たな国土形成計画(令和5年7月閣議決定)に掲げる「地方への人の流れの創出・拡大」の実現に向け、国民の関心を的確に捉えたニ地域居住等の促進を加速化することが不可欠。
国土形成計画は、上記にあるように令和5年度に閣議決定された重要な計画になります。建設部門においては、2024年問題と並ぶ重要トピックと言えます。本計画をまだ読んでない人は、すぐに目を通すべきです。
そんな重要な国土形成計画には、GXや防災・減災といった取り組みに関する記述がありますが、これらと並ぶ形で「地域の整備に関する基本的な施策」に二地域居住が位置付けられています。さらに、この項目は「分野別施策の基本的方向」の一丁目1番地として示されているのですから、国の力の入れようが伺えます。
国土形成計画に示される二地域居住
まず、本計画では、東京一極集中の是正の必要性から始まり、都市住民の地方移住への関心が高まっていること、住む場所に縛られない新たな暮らし方・働き方が一定程度浸透していることから、地方への人の流れの創出・拡大と地域活性化につなげていくものとしています。
今回の論文にもこのような背景が記載されておりますように、この背景・流れをしっかり理解することが定説です。施策背景をしっかり理解すると論点がずれるといった致命的なミスを防ぐことにつながります。また、他の問題が出題された場合でも、解決策として的確に活用でき、キーワードとしての可能性も広がります。
では、本計画には、どのような取り組みが記載されているのか見ていきましょう。具体的には、次の通りです。
- 移住支援金を支給
- 一元的な情報提供システム、ワンストップ窓口
- 地方への移住のための情報提供や相談支援を充実
- サテライトオフィス等の整備
- シニア世代の「元気なうちの地方居住」を促進
- 空き家を活用した施設整備
これらの取組みの根底にある考え方は、住居の確保とテレワークの活用による場所に縛られない働き方の推進とを車の両輪としていることを理解しましょう。論文では、建設部門に関連が深い取り組みを抽出して解決策とすると良いでしょう。また、このような背景や施策を踏まえれば、「働き方改革」の施策としても活用できそうです。
論文
今回投稿いただいた論文は、上記の内容を理解された上で記述されているものと思われます。一定の水準は確保されているので、みなさんの参考になる良い論文です。それでは、早速論文を見てみましょう。
問題
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、急速にテレワークが普及した。東京の企業に勤めたまま地方に移住しテレワークを行う「転職なき移住」など、個人個人の価値観に応じた暮らし方・働き方の選択可能性を高め、住む場所に縛られない新たな暮 らし方・働き方が浸透してきている。
このような変化を捉えて地方への人の流れを生み、地域の担い手の確保や消費等の需要創出、新たなビジネスや後継者の確保、雇用創出、関係人口の創出・拡大等に繋げていく必要がある。また、多様なライフスタイルの実現は、ウェルビーイングの向上、新たな暮らし方、新たな働き方の実現、 新たな学びの機会の創出といった効果も期待される。
分散型国づくりや持続可能な地域活性化を実現するため、二地域居住は極めて有効な手段である。このことを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)二地域居住を推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ。
課題
1.多面的な課題
(1)いかに居住を促す環境の整備を推進するか
コロナ禍以降、東京圏在住者では地方移住への関心が高まっている①。しかし、日常生活に必要な諸機能②が充実する都心③と比べ、地方では生活サービスが縮小傾向にある等、居住へのためらいが生じやすい④。そのため、日常生活に必要な生活サービスを持続的に提供していくことが重要である⑤。よって、都市づくりの観点から居住を促す環境の整備が課題である。
① コロナ禍以降とあるので、コロナを契機とした変化を書いた上で、関心の高まりを説明した方が良いと思います。→「コロナ禍以降、リモートワークの普及によって場所に囚われない働き方が認知され、都市部から地方への移住に関心が集まっている」
② →「都市機能」
③ →「都市部」
④ 縮小傾向にあるからではなく、都市部に比べるとサービス水準が低いことが明らかだからではないですか。→「生活サービス水準が低いことが移住のハードルとなっている」
⑤ 前段の縮小傾向を変えてしまったので、「一定の生活サービス水準を確保することが重要である。」としてはいかがでしょうか。
(2)いかに柔軟な働き方を実現するか
コロナ禍を契機にテレワーク等が普及・拡大されている。生産年齢人口の移住促進には、個人や企業の価値観に応じた働き方の選択可能性を高め、住む場所に縛られない暮らしの実現が重要である⑥。よって、多様性の観点から柔軟な働き方の実現が課題である。
⑥ 前述の課題と背景が同じになってしまいました。後述部分を背景に変更したうえで、重要性は変化する価値観に対応し、Well―Beingや新たなビジネスの創出としてはいかがでしょうか。→「近年、個人や企業では労働に求める価値観が変化するとともに、ライフスタイルも多様化している。このような状況変化に対応し、W e ll – B e i n gの実現や新たなビジネスを創出することが今後重要となる。」
(3)いかにソーシャルキャピタルの形成を図るか
移住・二地域居住者等の地域コミュニティへの参加は、地域活性化に繋がることが期待される。しかし、地域によっては「よそ者」に対する寛容性が低く、地域トラブルに発展する可能性もある。よって、包摂性の観点からソーシャルキャピタルの形成が課題である。
※指摘なし
解決策
2.最も重要な課題と解決策
良好な居住環境の整備は移住の訴求力に直結すると考えるため「いかに居住を促す環境の整備を推進するか」を最重要課題に選定し、以下に解決策を述べる。
(1)住まいの確保
①空き家の活用
空き屋の流動性を高め、居住促進に向けて⑦有効活用するため空き家バンクを構築する。構築にあたり、物件の位置情報に併せてハザードや生活支援情報等をラップし、充実した物件情報を提供する。居住の創出にあたっては、クラインガルテン等の試住施設を併せて整備する⑧。地域の暮らしが体験できるお試し居住環境を用意することで、多様性を持った移住を実現する⑨。⑩
⑦ →「移住者の住まいとして」
⑧ 居住の創出とあるので、お試し機能は分けて書いた方が良いと思います。→「クラインガルテンを整備するなど、地域の魅力を付加する。」
⑨ お試し居住でなぜ多様性が創出されるのか分かりません。これは、移住を促進するための支援策ではありませんか。→「・・・用意し、移住の前段階における支援も実施する。」
⑩ スペースがないので、難しいとは思いますが、付加価値、お試し居住は、空き家活用ではないので、それぞれ小見出しが欲しいです。スペース上、難しければ「空き家の活用」という小見出しは削除しましょう。
(2)生活を支える都市基盤整備
①都市機能の誘導
生活サービスが確保された市街地を形成するため、病院施設等の誘導を図る⑪。具体的には、立地適正化計画の策定により都市機能誘導区域を定め⑫特定誘導地区⑬を指定する。容積率及び用途制限の緩和により、誘導施設の建築⑭を促進する。地域内に点在する公共施設については、集約化・複合化を推進し利便性向上を図る⑮。
⑪ なぜ病院なのかといった疑問が生じるので、「不足する施設を誘導する」としてはいかがでしょうか。
⑫ →「計画を策定し都市機能誘導区域を定めた上で、」
⑬ →「特定用途誘導地区」
⑭ →「立地」
⑮ 集約化・複合化してなぜ利便性が向上するのか分かりません。便利な立地に集約するということですかね。理由を書きましょう。
②公共交通ネットワークの再構築
集約された都市機能へのアクセシビリティを確保するため、地域公共交通計画を策定し、拠点間を結ぶように公共交通ネットワークの再構築を図る⑯。移動にはAIオンデマンド交通等を導入し、柔軟な移動を実現する。また、MaaSを導入し目的地への移動に伴う手続きをシームレスにすることで、効率的かつストレスの無い移動を実現させる。
⑯ →「を再構築する」
(3)制限のない教育環境の創出⑰
・地域の魅力を最大限化⑱
テレワーク等、大人が自由に職場環境を選択できる一方で、住民登録されていない児童の就学には制限がある⑲。そのため、区域外就学制度を活用したデュアルスクールを推進する。推進にあたり、地域が有する自然や文化等の魅力を最大限に活かした教育環境を整備する。例えば、自然学習等のネイチャープログラムを組み込むことで地域や学校に捉われない学びの環境を創出する⑳。このように、地域の魅力を活用して子供の教育上の課題を解消することで、子育てと仕事の両立を希望する女性や若い世代の居住を促進する。
⑰ この項目に関しては、「都市づくりの観点」といった視点が少ないです。
⑱ 他に小見出しがないので不要。
⑲ 移住しているのであれば、その子供も住民登録されるのではありませんか。このケースは、大人が住民票を移さない場合に限るられるので、その条件を書いた方が良いでしょう。
⑳ ⑰のとおり都市づくりの観点を補うために、廃校を利用するなど既存ストックの活用いった説明を加えると良いと思います。
3.新たなリスクと対応策
解決策の実行によって㉑地域の魅力が高まることで、開発圧力が高まり乱開発によるスプロール化現象の発生等の㉒自然生態系への悪影響が懸念される。
対応策として、居住調整区域の設定を行う。将来的なインフラ整備や住宅地化の抑制を図ることで、立地適正化計画の実行力を高め、市街地が無秩序に拡散していくことを防止する。
㉑ 問題文に記載があるので不要。
㉒ ちょっと説明がしつこい印象を受けます。乱開発かスプロール化現象の発生かのどちらかにしましょう。
4.必要な要件と留意点
業務にあたっては、常に社会全体における公益を確保する観点と、安全・安心な社会資本ストックを構築して維持し続ける観点を持つ必要がある。業務の各段階で常にこれらを意識するよう留意する。 以上