小説「理の礎」執筆中
【 技術士 二次試験物語 】
はじめに──この物語を執筆する動機
現在、私は「技術士試験」を題材にした小説を執筆しています。技術士という国家資格は、技術者としての知識・経験・倫理観を問う厳格な試験であり、取得後は社会的責任を伴う立場となります。しかし、その重みや葛藤、現場での実感は、制度の説明だけでは伝えきれません。だからこそ、私は小説という形式を選びました。
この物語は、制度設計と現場実装の狭間で揺れる技術者の姿を描いています。主人公・神谷は、技術士試験に挑む中で、自身の設計哲学と向き合い、住民の声に耳を傾けながら、都市の未来を描こうとします。これは単なる資格取得の物語ではありません。技術と思想、責任と誠意が交錯する、リアルな人間ドラマです。
この挑戦は、技術士の皆さんへのメッセージでもあります。私たちの資格は、もっと広く、もっと深く、社会に響く力を持っている。そのことを、小説というかたちで証明するとともに、小説という場においても技術士資格は活用できるという可能性を示したいと思います。
技術士試験を「物語」にするという挑戦
「技術士試験を小説にする」と聞いて、意外に思われる方もいるかもしれません。試験と物語は、形式も目的も異なるものです。しかし、技術士試験が問うのは、単なる知識ではなく、現場での経験を言語化し、制度と接続する力です。つまり、技術者としての「語る力」が試されるのです。
この小説では、神谷が試験に向けて準備する過程を通じて、制度設計力とは何か、技術者の責任とは何かを問い直します。彼が書く論文は、単なる答案ではなく、現場の声を反映した「思想の表明」であり、都市の未来を形作る一歩でもあります。
少しだけ、物語の中身を──神谷の葛藤と成長
物語は、神谷が技術士試験に向けて設計業務に取り組むところから始まります。彼は自分の設計哲学に自信がなく、完璧な線を引くことで不安を封じ込めようとします。若手技術者たちは彼の背中を見て育ちますが、その姿勢には焦燥と防衛が滲んでいます。
ある日、橋沼市で水害が発生し、雨水貯留槽の沈下によって住宅地が冠水します。住民の怒りと不安が噴出し、「安全」という言葉が裏切られた現実が突きつけられます。神谷はその責任を痛感し、スマートシティ推進室で新たな挑戦を始めます。
提案書の作成、プレゼンテーション、住民説明会──神谷は技術だけでなく、言葉と誠意を武器に信頼を築こうとします。住民の声を資料に反映させ、疑問に答える構成に改める。説明会では、過去の失敗を思い起こしながらも、誠意を持って対応する姿が描かれます。
技術者の「語る力」とは何か
本書は、ある都市の再開発計画をめぐる物語を軸に、制度と人間、論理と感情、公共と私的の交錯を描き出します。主人公は、都市計画に携わる技術士。
彼は冷静な分析と制度設計の知見を武器に、複雑な利害関係の中でプロジェクトを推進していきます。しかし、制度の隙間に潜む人間の感情や、予測不能な出来事が、彼の論理を揺さぶり始めます。
この物語の魅力は、単なる技術的な描写にとどまりません。むしろ、制度という抽象的な構造が、人間の心理や関係性にどう作用するかを、繊細かつリアルに描いている点にあります。
登場人物たちは、制度の中で生きる「歯車」ではなく、制度に影響を与え、時に逸脱し、時に再構築する「主体」として描かれます。その描写は、まるで制度の設計図に感情の筆を加えたような、独特の美しさと緊張感を孕んでいます。
技術士という資格の「物語的可能性」
技術士という資格は、社会の中で技術者がどう生きるかを問うものです。その過程には、葛藤も失敗もあります。だからこそ、小説という形式が生きる。制度の説明では伝えきれない、現場の空気感や人間関係、誠意と責任の重みを、物語として描くことで、読者に深く響くものが生まれると信じています。
この作品では、技術士試験の合格がゴールではありません。むしろ、それは新たなスタートです。神谷が合格通知を受け取る場面では、家族との喜びの瞬間が描かれますが、その先には、制度と現場の接続という新たな挑戦が待っています。
読者へのメッセージ──この物語を読んでほしい理由
この小説は、技術者だけでなく、制度と現場の狭間で悩むすべての人に読んでほしい作品です。設計とは何か、責任とは何か、信頼とは何か──それらを問い直すことで、私たちの社会のあり方が見えてくるはずです。
技術士という資格を持つ人も、これから目指す人も、まったく関係のない人も、この物語を通じて「技術」と「思想」が交差する瞬間に触れてほしい。そして、神谷のように、自分の言葉で未来を描く勇気を持ってほしい。
さらに、先般発売しました「制度設計力で社会を動かす！技術士試験から実務への実践ガイド」と一緒に読んでいただくと面白さ１０倍になります（この本の紹介はコチラ）。また、小説を通して制度設計を学ぶことにより、より深く「制度設計力」を理解することができます。乞うご期待！
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おわりに──執筆中の今、伝えたいこと
この物語はまだ執筆中です。構成を練り直し、資料を見直し、神谷の言葉に耳を傾けながら、少しずつ形になってきています。完成までにはもう少し時間がかかりますが、すでにこの物語は私にとって大切な「技術士試験」そのものです。
制度と現場の隙間を埋めるために、言葉を尽くす。誠意を持って語る。そんな技術者の姿を、小説という世界で描き切りたいと思っています。
この小説は、今、私自身が一番読みたい小説を形にしたものです。完成した暁には、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。技術士試験を受けたことがある人も、そうでない人も、きっと何かを感じていただけるはずです。
