添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
今回の添削LIVE(過去の添削論文はコチラ)は、建設部門の河川、砂防及び海岸・海洋からの投稿です。初めての河川関連なので、私もワクワクしながら添削させていただきました。論文のテーマは、「災害情報の提供」です。専門分野は違えど、建設部門における防災関係はやはり出題率が高いですね。さらに、情報提供というニッチな出題なので、解決策が限られますので難しい問題です。
災害情報をいかに住民に知らせていくかという点においては、どの分野であっても重要です。さらに問題は、デジタル技術の活用が前提とされているので、DXの観点からも参考になるテーマと言えます。2023国土交通白書の第1部は「デジタル化で変わる暮らしと社会」ですから、要チェックです。
最近は、DXに始まりGX(グリーントランスフォーメーション)、SX(サステナビリティトランスフォーメーション)など○○Xが世の中に溢れ始めています。トランスフォーメーションなので、様々な社会変革が求められている裏返しなのでしょうね。この変革の波に、乗り遅れないように技術者は研鑽を重ねないと持っているスキルはすぐ陳腐化しそうです。技術者にとっては、なんとも恐ろしい時代です。
今回の論文では、どのようなアプローチで水害情報を提供しているのか!もう、興味津々です。さっそく論文を見てみましょう。
1.避難行動に結びつく災害情報提供あり方の課題
(1)災害発生時の防災・減災対策のデジタル革新
災害発生時の防災・減災対策でのデジタル技術の導入は発展途上で, デジタル技術を十分満足に使い込んでいる状況ではないので, 救えない命が存在している①。
よって,避難行動に結びつく災害情報の提供のあり方に当たっては②,運用の観点③から, 災害発生時の防災・減災対策のデジタル技術の革新が課題④である。
① 文が長いです。「導入が途上」、「十分使いこなせていない」を分けると良いと思います。また、導入は発展途上との表現も、導入が主語なので分かりづらくなっています。例えば、「・・・技術の導入は、十分とは言えない。また、導入した場合においても、デジタル技術を満足に使いこなせないケースも散見される。その結果、救えない命が存在している。」とかいかがでしょうか。命云々は、なくても良いかもです。
② 問題の条件なので、わざわざ書く必要はないと思います(スペースがもったいない)。以下同様。
③ 技術革新と運用に関連性はないと思います。運用が観点なら、技術導入の促進とかですかね。一方、技術革新が課題なら、技術面の観点とかですかね。
④ 背景では、「導入が途上」、「十分使いこなせていない」としています。しかし、課題は技術の革新となっています。革新の必要性は、現状の技術がしっかり用いられたその先にあると考えます。したがって、背景と課題設定がミスマッチです。
(2)平時におけるリスク情報の見せ方の高度化
平時での,避難行動に結びつく住民の居住地域の情報はハザードマップが主であり,実際の避難のイメージと合致しないので,避難行動を円滑に起こしづらい⑤。
よって,避難行動に結びつく災害情報の提供のあり方に当たっては,見せ方の観点から,サイバー空間での流域の再現( デジタルツイン) やA R / V R⑥ による災害シミュレーション等による, リスク情報の見せ方の高度化⑦が課題である。
⑤ 文脈はおかしくないですが、文が長いです。一回文を切って、接続詞で結びましょう。また、「避難行動に結びつく住民の居住地域の情報はハザードマップ」との表現は、分かりづらいです。修飾語が多いのが原因です。修飾語は、最低限にしましょう。例えば、「避難行動に結びつく情報はハザードマップ」としてはいかがでしょうか。短いですが意味は通じますよね。
⑥ 「流域の再現」との表現に違和感があります。流域は場所であり、流域における被害状況をシミュレーションするのですよね。そうであるなら、端的に「デジタルツインやAR/VRによる災害シミュレーション」で良いと思います。また、この部分は解決策になっています。この項目は、課題を書くところですので、なるべく課題の背景や、課題として取り扱う理由(根拠)の記載に留めましょう。課題項目で解決策まで書いてしまうと、評価者にここは「課題を書くところなのになぁ」と思われてしまうことはもちろん、重要な課題として取り上げた場合、書くことが限定的になったり、重複したりといった問題が生じるので、良いことなしです。
⑦ 「見せ方の観点から、見せ方の高度化が課題」となっており、観点と課題が類似しています。
「リスク情報の見せ方の高度化」→「リスク情報の高度化」で良いと思います。
(3)確率規模浸水範囲の認識の促し⑧
ハザードマップは想定最大規模なので,マスコミによる「過去何年に1度の降雨」との表現⑨が伝わりづらく,避難行動に結びつきづらい。よって,災害リスクラインや多段階の浸水想定図により⑩,確率規模降雨の浸水範囲の概念を住民に認識させ,「何年に1度」の表現が日常で意識できるようにすること⑪が課題である。⑫
⑧ 問題文には解答の条件として、「様々なデジタル技術の活用が期待されている状況を踏まえ」とあります。記載の課題設定では、デジタル技術との関連がなく題意に沿っているとは言えません。
⑨ この表現はマスコミに限りませんし、限定する必要もないので、「マスコミによる」は削除。
⑩ 解決策は絶対に書いちゃダメではないですが、⑥のとおり、あまりお勧めしません。
⑪ 前半部分と後半部分は、ほぼ同じ内容であり重複しています。
⑫ 観点がありません。
2.最も重要な課題とデジタルによる複数の解決策
避難行動に結びつく災害情報の提供のあり方に当たっては⑬,災害発生時の対策が減災効果が高い⑭ので,前述(1)「災害発生時の防災・減災対策のデジタル革新」が最も重要である。
⑬ ②のとおり、不要。
⑭ 「災害発生時の対策が減災効果が高い」→「災害発生時の対策として減災効果が高い」
(1)浸水センサのプラットフォーム連携とAI解析
これまでの水災害のうち6割が内水氾濫によることが明らかになっている。しかし,リアルタイムに内水状況を把握する技術は普及しておらず,毎年,内水による人的被害が発生している。
よって,流域内の様々な施設へ,簡易浸水センサを設置し,国土交通データプラットフォームにセンサ情報を連携させ,このAI解析結果⑮をリアルタイムに配信する。これにより,内水状況のリアルタイム把握・予測・発信が可能になり,内水被害の減少が図られる⑯。
⑮ AI解析結果が突然出てきますね。「蓄積したセンサ情報をAIにより解析し」のステップが説明されていないからですね。ただし、これを加えると文が長くなるので、どこかで文を切ると良いでしょう。
⑯ 被害の減少も飛躍していますね。リアルタイム情報の発信による効果は、避難行動が促進されることではありませんか。その結果、被害が減少するというロジックになります。
※指摘はありますが、解決策としては良いアプローチだと思います。
(2)デジタルマイタイムラインと逃げなきゃコール
ハザードマップは,ほとんどの市町村で作成が進んでいるが,タイムライン⑰の作成は途上である。また,モバイル端末は国民の8割まで普及している一方,残りの2割の高齢者はモバイル⑱に頼ることができない。
よって,8割の国民には,モバイル端末と馴染みやすいデジタル・マイ・タイムラインの作成を促し,防災情報のプッシュ型配信により避難行動を促す。残る2割の国民には,親族への「逃げなきゃコール」の活用促進を強力に進め,今以上強いブロードバンド型配信と合わせ,可能な限り人命の救済を補う⑲。
⑰ 「タイムライン」→「マイタイムライン」
⑱ 「モバイル」→「モバイル端末」※デジタル情報の方がより良いと思います。
⑲ この部分は、「・・・進め、」で文を切った方が良いです。「8割はコレ。2割はコレ。コレらのためには、通信環境を強化。」の組み立てが分かりやすいです。救済を補うものではないと思いますし、なくても理解出来るので「人命救済云々」は必要ないと思います。
※指摘はありますが、これも解決策としては良いアプローチだと思います。
(3)AIの活用による本川支川一体の洪水予測
これまでは,国管理の本川,都道府県管理の支川,別々に洪水予測を行っていた。このことで,住民の付近の河川の洪水予測が入手しづらく,迅速な避難行動に結びつかなかった。
よって,AI技術の活用により⑳,本川支川一体となった洪水予測を早期に行うことにより,適切な避難行動に結びつける。
⑳ 前段では、情報の一元化の必要性を説明しているように見えますが、解決策ではAI技術となっています。一元化になぜAI技術がふさわしいのか理由を説明すべきです。
3.解決策に共通して新たに生じうるリスクと対策
(1)解決策に共通して新たに生じうるリスク
解決策の実行には,デジタル技術への依存㉑をこれまで以上に高める必要がある。一方㉒,解決策に用いる災害リスク情報に必要な国土情報・インフラ情報・国民個人情報への悪意のある不正アクセスや操作・情報書き換えの可能性も㉓高まる。
㉑ 依存というとネガティブな印象を受けます。「デジタル技術をこれまでに以上に活用する必要」ですかね。
㉒ 「一方」で接続すると、前段との関係がなくなり、話題が切り替わったものとして読んでしまいます。「デジタル情報がこれまで以上に必要。だから、不正アクセスが懸念。」とつながるのではありませんか。接続詞は、「このため」、「したがって」とかがふさわしいのではないでしょうか。
㉓ 「も」は並立・付加に用いる助詞なので不適切です。また、「リスクは?」と聞かれているので可能性ではなく「リスク」と表現した方がより良いと思います。よって、「リスクが高まる。」ですかね。
(2)リスクへの対策
これには,防災担当職員とシステムベンダー合同の定期的なシステム監視機会の構築によりデジタル管理レベルを向上させる。また不慮の事故㉔発生時に,システムベンダーが不在で,防災担当職員しかいなくても㉕,最低限のシステム遮断ができるように,全庁的な外部研修により,防災担当職員㉖のデジタルリテラシーを向上させることにより対処する。 -以上-
㉔ 事故というとシステムの故障のようにも捉えられますので、「不慮の事故」→「リスク」とした方が分かりやすいです。
㉕ ちょっと長ったらしいですかね。「システムベンダーが不在であっても」だけで良いと思います。
㉖ 防災担当職員と対象者を限定しているにもかかわらず、全庁的な研修となっています。研修の対象者が不整合ですね。