立地適正化計画と地域公共交通計画の実効性
【 技術士 二次試験 】
コンパクト・プラス・ネットワークのおさらい
集約型都市構造
今後の都市づくりを考えるうえで、集約型都市構造の検討は避けられません。いわゆるコンパクトシティです。
市街地をコンパクトにして、公共投資も集約し都市運営を効率化していこうという考えです。人口減少を背景とした財政の逼迫への対応だけでなく、高齢化社会における都市環境の形成にも有効です。
この都市構造は、すでに活力の低下が懸念・顕在化している地方都市への導入が積極的に行われていきました。有名なのは、富山市のお団子と串のような都市構造です。
「串」のLRT
お団子は、集約された市街地を表し、串は公共交通ネットワークを表しています。この公共交通ネットワークの一つとしてLRTが導入されており、この都市構造とともに有名となりました。
串を形成するLRTは、簡単にいうとカッコいい路面電車です。LRTは、北陸新幹線の開業とこれに合わせた連続立体交差事業とセットで事業が進められていました。
このため、LRTは富山駅とシームレスに接続することができ、乗り換えを容易にしています。さらに、軌間等に緑化が施されており、都市景観にも貢献し都市の質を高めています。
LRTは単なる移動手段ではなく、公共交通機関そのものに魅力が備わっています。私も開業してすぐに乗りに行きましたが、車両のデザイン、バリアフリー化された施設、車窓のシークエンス景観などかなりのインパクトがあったことを記憶しています。
集約型都市構造の課題
シュリンク
市街地を集約すれば、人口密度が低下する地域が発生します。縮退していく地域では、スラム化やゴーストタウン化などが懸念されます。このようなエリアを上手に縮退させていこうということで、スマートシュリンクなる考えが提示されています。
例えば、低未利用地化した土地を緑化やコミュニティースペースにしましょうといった施策が例示されていました。しかし、土地には所有者が存在して、大切な資産として有効な活用を望むはずです。
このような構造で、果たしてスマートシュリンクなどといった仕組みがうまくいくのか懐疑的です。最近、スマートシュリンクという用語をあまり目にしません。
縮退よりも、空き家対策や公共交通通の再編(リ・デザイン)などが声高に叫ばれています。シュリンクというより、今あるストックを使い倒そうという考えにシフトしているように感じます。
つまり、縮退を考えるのでなく、都市の資産(資源)を有効活用していく、ストック効果に焦点を当てています。一方、縮退とは言えませんが、これまでのフロー効果からストック効果に着目するといったシフトチェンジが促されています。
交通
LRTのように、集約型都市構造に必須となるのが交通ネットワークです。コンパクト・プラス・ネットワークに示されるネットワークの部分です。
都市機能を集約すれば、当然そこに人々が集中します。集中交通量の増加は、交通渋滞の発生やこれに伴う温室効果ガスの増加などが懸念されます。さらに、縮退したエリアでは人口がさらに減少するので、バス路線などが廃止され生活利便性が著しく低下します。
このように、ネットワークを加味せず集約化を進めれば、住みにくい都市の出来上がりです。特に高齢者や障害者といった移動制約者は、死活問題になります。
よって、コンパクト・プラス・ネットワークとしているわけです。計画においても、集約型の都市構造を目指す「立地適正化計画」、公共交通ネットワークを構築する「地域公共交通計画」の連動を強く促進しているのです。
最近の動向
立地適正化計画
立地適正化計画は、平成26年8月に都市再生特別措置法等の一部を改正する法律が施行され創設されています。下図のように、現在では作成中を含め、686の自治体が取り組んでいます。
国土交通省では、立地適正化計画作成の手引きを作成し、策定の促進を図っています。この手引きは、3度の改訂を経ています。H30では都市のスポンジ化対策が、R2では防災指針が示されています。
このように単なる集約化というより、その効果(アウトカム)に力点が置かれています。最近では、防災指針のように防災・減災といった効果が主流化しています。
このように、集約化という手段が目的化することを防ぎ、明確なアウトカム指標により集約型都市構造導入のインセンティブを明確化しています。
立地適正化計画を策定した場合、自治体には多様な補助制度の活用が可能になることや、従来の補助制度に上乗せがあることなどから、財政的な観点から自治体にメリットが発生します。
制度創設当初は、人口が減少する地方都市の活用が主流でしたが、上記のようなメリットがあることから、都市部においても計画策定の動きがみられます。しかし、すでにコンパクトな市街地が形成されている、スプロール化など起きていないといった都市も少ないながらも、存在しています。
これらの都市では、立地適正化計画の策定は必要ないのでしょうか。私は、コンパクト化しているから計画策定は不要と判断するのは性急だと考えます。前述のように、立地適正化計画は、コンパクト化することだけが目的ではないからです。
自治体の抱えている問題は様々です。繰り返しになりますが、集約型都市構造の構築は手段です。よって、空き家の増加、ソーシャルキャピタルの低下が懸念、交流人口を増やしたいなど様々な課題解決への手段として、計画の必要性を検討すべきです。
集約型都市構造の構築は、都市問題を解決する上で多くの可能性を秘めており、ポテンシャルの高い施策です。
地域公共交通計画
地域公共交通計画は、これまで様々な計画を経て現在の形になっています(下表参照)。私も昔この計画策定業務に携わっており、地域公共交通総合連携計画という名称で法定協議会の議論を経て策定検討を進めた記憶があります。
昔は、バス事業もドル箱路線と言われるような高い収益を計上できる路線があったものの、自家用自動車交通の急速な普及により徐々に衰退がはじまりました。さらに、20年ほど前からは、人口減少→運行サービスの低下→利用者の更なる現象→更なるサービス低下・・・といった具合に負のスパイラルに陥っていました。
このような状況から、公共交通の利用が不便な地域が社会にあふれるようになりました。これを受け、コミュニティバスなどがブームとなり、自治体自らがバスを運行する動きがでてきました。
しかし、武蔵野市のムーバスなど一部の路線は好調ではあるものの、大半の路線は赤字運行を強いられている状況です。
近年では、これに加え燃料の高騰、運転手等の人材確保、2024年問題と新たな問題も顕在化しています。もはや、交通事業者の経営努力で解決できる状況ではなくなり、関係者が一丸となって取り組む必要があります。
これまでの交通モードは、長距離移動を鉄道交通が担い、中距離輸送を道路交通が担っていました。最近では、シェアサイクルや電動キックボードなどのシェアモビリティや、グリーンスローモビリティといった短距離移動に特化した交通モードも生まれています。
このような交通モードを上手に組み合わせるとともに、集約型都市構造とセットで検討することで、より合理的な交通網を形成することができます。すなわち、立地適正化計画と地域公共交通計画は、連動させることにより高いシナジー効果を発現するのです。
今後の動き
立地適正化計画の実効性の向上に向けたあり方検討会
これまでは、前述のとおりコンパクトとネットワークの両輪で都市の課題解決に取り組んできたわけですが、令和5年12月7日の国土交通省報道発表では、コンパクト・プラス・ネットワークの取組をさらに実効的にするための議論を開始とありました。
この議論を進める場として、立地適正化計画の実効性の向上に向けたあり方検討会が設置された模様で、令和5年12月15日に第1回目の開催が予定されています。
技術士 筆記試験の前までに結論がでるか分かりませんが、今後の都市づくりに大きな影響を与えることが推測されます。この委員会の議論には、今後も注視していく必要があります。
「地域公共交通計画」の実質化に向けた検討会
一方で、地域公共交通に関する議論も活発化しています。立地適正化計画の実効性の向上に向けたあり方検討会の活動発表された翌日、令和5年12月8日には~「モビリティデータを活用した、無理なく、難しくなく、実のある計画」の実装に向けて~と題して、「地域公共交通計画」の実質化に向けた検討会の開催が発表されています。
また、同日には、社会資本整備審議会計画部会・交通政策審議会交通体系分科会計画部会 合同会議を開催することも発表されています。この会議では、交通政策を取り巻く課題等について意見をうかがうこととしています。
検討会の方は、データ活用がテーマとなっているので、公共交通のリ・デザインを進めるための具体的な取り組みが議論されそうです。他方の部会では、状況報告がメインになりそうですが、昨今では政府が「ライドシェア」の検討に着手するなど新たな交通モードの創出に関心が高まっています。
技術士 二次試験 予想問題
このような活発な動きを勘案すると、 技術士 二次試験対策としても注目する必要があります。どちらの出題を予想するにしても、相互に関係しているこれら二つの計画は、両方とも抑えておいた方が無難です。
国土形成計画、まちづくりGX、そしてコンパクト・プラス・ネットワークと出そろってきましたね。 技術士 二次試験対策は、山をはる必要はありません。これらすべてについて、論文を作成すれば良いのです。
今は十分な時間があります。情報収集をしっかり行い、そのアウトプットとして論文を書きましょう。この段階での練習論文は、情報や資料を見ながらで良いので情報を形にするといった意識で取り組むと良いでしょう。