添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
骨子は論文の屋台骨
もう今年も終わりに近づいていますね。時間は有限であり、漫然と過ごしていると瞬く間に消費されてしまいます。かくゆう私も、今年やりたかったことの半分もできていない軟弱者です。これを反省し、来年は新しいことにドンドン取り組んでいく予定です。
さて、多くの人たちが年末年始の9連休に突入していると思いますが(仕事の人は本当にお疲れ様です)、令和7年受験生はこの機会を活用しない手はありません。私のもとにも、いくつかの論文が寄せられています。今日は、そんな投稿の一つをご紹介します。
今回の投稿で目を見張ったのは、手書き&骨子付きという気合の入りようです。この時期から手書きとは、頭が下がる思いです。また、注目すべきは、骨子を作成している点です。骨子は、本番には必ず行うべきステップであり、とても重要な作業になります。
骨子がなぜ重要かというと、考えを整理する上で大変有効だからです。これまで、思考=整理と申し上げてきました通り(過去記事はコチラ)、順序だてて説明するためには書きたいことをメモし、整理する必要があります。
みなさんもアイデアだしする際には、ブレインストーミングを良く行うと思います。しかし、アイデアは想起して終わりではなく、その後、川喜田二郎のKJ法でアイデアを分類するといった作業が重要になります。これは、まさに思考の整理に近い作業と言えます。
試験においても、全く同様のプロセスを行います。問題で使えそうなキーワードをランダムに空白に書きととどめます。これは、問題を読んでる途中でも、論文を書いている途中でも構いません。とにかく、使えそうなキーワードが頭に浮かんだら、すぐさまメモするのです。これは、練習であっても、同様にメモしましょう。練習で癖をつけ、習慣化しましょう。
問題とキーワードを眺めながら、3つの観点・課題→3つの解決策をひねり出します。余力があれば、リスクとその解決策まで書くと良いでしょう。ただし、本番は時間(10分以内で骨子は作る)がないので、最低でも課題と解決策は用意しましょう。以下に骨子の例を示します。
このように、何を書くのか分かるようにだけすればOKです。記憶の引き出しのカギを作るイメージです(これを見ると何を書くべきかすぐに思い出せる状況)。これを作ったら、最初にやることは、問題と骨子を見比べることです。この作業は、メチャクチャ重要です。なぜ重要かというと、この見比べによって、論点ズレを回避できるからです。
「この課題設定では、聞かれていることとずれているな」、「この解決策は課題には対応しているけど、問題の主旨に沿っていないな」といった具合に自問自答してください。このように、題意に沿った記述になっているか簡単にセルフチェックできます。ここで間違いを見つけても、骨子であればすぐに書き直すことができます。
次にやることは、メモったキーワードを骨子の各課題や解決策のどこに収めるか考えます。上の図は、あくまでアウトラインなので、キーワードを入れる箱を作っているイメージです。この箱に、中身(キーワード)を詰め込むのです。
書きたいことがあふれ出てくる人は、詰め込みすぎ注意です。キーワードを捨てる勇気も持ちましょう。詰め込みすぎると、一つ一つの内容が浅薄になることと、支離滅裂になることが懸念されます。スペースに制限がある論文では、引き算の美学が求められます。言いたいことが浮き彫りになるように、整理を行います。
ただし、大抵の人は、すべての箱にキーワードをすぐにいれることは難しいと思います。1つ、2つの箱は何も入れられないといった状況に陥ります。この時、焦りは禁物です。2分考えてもキーワードが思いつかない場合は、もう箱自体を変えてしまいましょう!
このような大胆な行動も、骨子だからこそできるのです。近年、問題は複雑化する一方です。今後、ますます骨子の重要性が高まってくること請け合いです。骨子は、思考整理のアウトプットになりますので、論文の屋台骨と言えます。屋台骨がしかっりしていないと、堅牢な論理は組み立てられないことを肝に銘じましょう。
論文
本日の添削LIVEは、令和6年度 電気電子部門 必須科目Ⅰ「持続可能な地域医療の実現」になります。先にも述べたように、手書き論文という気合の入ったものです。このように努力できる人は、あらゆることに強さを発揮できると思います。私も見習いたいものです。それで、は早速論文を見ていきたいと思います。
① これは懸念事項ではなく、想定される事項ではないでしょうか。また、遠隔医療の拡大でデータ量が増加することは理解できますが、健康ケアや介護ケアの充実化でデータ量が増加する理由が分かりません。これは、「遠隔医療の取組みが健康ケアや介護ケアに拡大すると取り扱いデータ量が増加する」が言いたいことですかね。
② 高度なオンライン化、ウェアラブルデバイスの活用を前提としていますが、読み手はなぜこれが前提となっているのか理解できません。また、前後の文のつながりもなく、文章の整理整頓ができておらず、言いたいことが伝わってきません。
③ これは、解決策を含む行動なので、観点というより課題に見えます。また、前段では大量のデータの発生と通信の必要性しか述べられておらず、データを活用するといった視点では一切の言及がありません。このようにデータ活用の必要性の説明がないため、なぜこの観点に至ったのか全く理解できません。
④ 課題は、【現況】→【問題点】→【必要性・重要性】→【結論】の順で書くと分かりやすくなると思います。
例:
【現況】データ量増加
【問題点】通信環境の悪化が懸念
【必要性・重要性】遠隔医療は安定した通信が不可欠
【結論】通信環境の観点からトラフィックの改善が課題
これを文章としてまとめると
「遠隔医療が健康ケアや介護ケアに拡大すると取り扱いデータ量が増加する。データ量の増加は、通信環境を悪化させ遠隔医療の実施に支障をきたすことが危惧される。データ通信の安定化は、患者の生命を守ることに直結するため大変重要である。よって、通信環境の観点から、トラフィックの改善が課題である。」
といった具合にまとめられます。
このような文章構成は、他の課題も同様となりますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
⑤ いきなり問題になっているというと主観的な主張に見えます。長時間労働が問題となっている背景(現況や事実)を書かないと唐突です。これも、④のとおり文章の構成が悪いことが原因です。後述の医師不足が要因となって長時間労働が顕在化しているとの文脈が言うべき内容ではないですか。→「地方都市などでは、医師をはじめ医療従事者不足が顕在化している。これにより、医療従事者の長時間労働が問題となっている。今後の生産年齢人口の減少を踏まえると、少ない人員で医療業務を維持し続ける必要がある。」
⑥ 労働力の観点では、どのような視点なのかよく分かりません。おそらく、労働力(を確保する)観点が言いたいことだと思います。しかし、これでは、観点というより解決策に見えます。課題に書いてある「省力化」の方が観点に近いと思います。
⑦ 「電気電子技術を用いた」との表現では抽象的過ぎます。問題にも、専門技術用語を交えることが条件となっていますので、省力化を達成するための技術を示すべきです。例えば、「ウェアラブル端末等のIoT機器の開発が課題」、「AIの活用が課題」、「RPAによるルーティン業務の自動化が課題」などが考えられます。
⑧ 当たり前であり、記述している意図が分かりません。不要。
⑨ 電気電子技術者の立場として提案すべき課題なのか疑義があるとともに、この項目には専門技術用語もありません。
⑩ これは、問題そのものでありどの課題にも当てはまるものだと考えます。
⑪ これは、課題の中ですでに述べている内容であり重複しています。
⑫ 課題は推敲するものではなく、解決するものです。そもそも、理由が長すぎます。選択の理由はあると良いと思いますが、問われてもいないことに対してこんなに文面を割く必要はないと思います。また、これらはどれも、この課題解決の必要性にすぎず、最も重要と考えた理由になっていません。他の課題との相対評価や、技術士倫理綱領に記載されている最も優先すべき点「公衆の安全、健康及び福利を守ること」に該当する理由が良いと思います。
⑬ 総務省の情報通信白書には、「エッジコンピューティングとは、従来のクラウドコンピューティングを、ネットワークのエッジにまで拡張し、物理的にエンドユーザーの近くに分散配置するという概念である。ネットワークの「エッジ」とは、通信ネットワークの末端にあたる、外部のネットワークとの境界や、端末などが接続された領域を指す。すなわち、データとその処理をクラウドに集約するのではなく、データが生成される場所に近い部分にアプリケーションを配置することで、より多くのデータを活用し、価値を引き出すことを目的としている。」とあります。
集約したり、送付データを判断したりすることは、上記のエッジコンピューティング技術の概念と異なるように感じます。
⑭ データ圧縮とエッジコンピューティングとの関係性が不明です。また、前述の集約・データ判断の例示にもなっていません。
⑮ これも⑭同様、エッジコンピューティングとの関係性が不明です。た、前述の集約・データ判断の例示にもなっていません。
⑯ 構文と文の順序がおかしいですね。解決策のパートでは、【目的】→【やること(方法)】→【具体例】の順にのべると分かりやすく表現できます。→「通信トラフィックを低減するため、医療関連データは、海外サーバを利用する一般クラウドサービスに依存せず、近距離にあるサーバを使用する。これを実現するために、各地域に医療特化型のデータセンタを設置する。」
⑰ 見出しは、「分散型データセンタの設置」であるにもかかわらず、分散型配置は留意事項にすぎないようにみえます。本来の目的は、トラフィックの改善です。この主目的を達成するための行動は、分散配置ではなく「医療特化型データセンタの設置」ではありませんか。せっかく、骨子を作成しているのですから、解決策においても論点整理を行いましょう。また、文と文のつながりが弱く、まとまりがありません。論述を展開するときは、A→B→Cといったような構成ではなく、AB→BC→CDといった構成になるよう意識しましょう。
⑱ 「採用する」とありますが、データの軽重という性質のみで帯域を使い分けることができるのですか。それができるのであれば、どうやってデータを区別し、帯域を適用させるのかその方法を記述すべきです。
⑲ この例示をみると、前項の「採用する」というのは、データの性質ではなく機器を対象にしているのでしょか。いずれにせよ、どのような行動を解決策として述べているのか分かりません。また、「最適である」とありますが、最適である旨を説明されても、それが何を意図しているのかよく分かりません。最適であるから、採用すべきということですか。きちんと最後まで説明しましょう。さらに、持続可能な地域医療との関係もよく分かりません。加えて、見出しの新しい通信技術とは何を指しているのでしょうか。見出しと内容がマッチしていないと思います。
⑳ この現象は、解決策を講じて生じる新たなリスクですか。もともと存在するリスクではありませんか。
㉑ どのように切り替え可能にするのかまで書くべきです。
㉒ →「を不可能にする」
㉓ 急に信頼性が追加されてますね。また、安全を第一と言っているので重複しています。おそらく、安全性と信頼性は並列ではなく、目的と方法の関係にあるのではないでしょうか。→「導入に当たっては、安全性を確保するために信頼性を考慮する。」
㉔ 新しい格差とは何か、平等な普及に配慮するとはどのような行動なのか、題意とどのような関係にあるのかなどの解釈に加え、構文も不適切で理解できません。
㉔ 持続可能性の要件を聞かれているのに、「持続可能なシステムを構築する」では問われていることと答えが同じにみえます。後述に具体があるので、この文は不要ですね。
㉕ 前半と後半は同じこと述べています。環境負荷の低い材料を具体化する、あるいは温室効果ガスの抑制といった具体的な行動にするなど、結論と異なる表現を考えましょう。