添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
論文を完成させる意義
前回に引き続き、今回の投稿論文も完成版をお届けします。技術士試験の勉強においては、論文を書くということ自体が練習ではあるものの、書きっぱなしでは試験対策という意味では十分ではありません。これまでに再三再四お伝えしていますが、論文は合格水準まで推敲することが大切です。
論文を完成させる意義は、以下の3つの有用性にあります。
- 合格水準の論文レベルを理解できる
- 推敲プロセスで自分のウイークポイントを改善できる
- 何度も書き直すことで知識が定着する
この論文を完成させるプロセスについては、第三者の添削が不可欠であるものの、添削だけでは不十分です。推敲は自分で考えるというステップを組み込まないと、ウイークポイントの改善や知識の定着が進みません。指摘されたことを直すだけでは、ただの作業です。
最初は、誤字脱字だけでも構いません。大事なことは「自分の書いた論文には絶対に間違いがある」という意識を持ってチェックすることです。「大丈夫だろう」というバイアスがかかると、自分でミスを発見しづらくなります。
また、自分でチェックをしたうえで添削を受ければ、推敲時にどのような視点が欠けているのかも理解できるようになり、自分自身の添削技術がレベルアップします。さらに、完成まで推敲を何度も繰り返すころにより、最初は誤字脱字しか見つからなかったのが、多角的な視点で論文を見れるようになります。
論文を完成させる意義は、合格するための文章推敲能力を完成させることでもあるのです。
論文
本日の添削LIVEは、電気電子部門 必須科目Ⅰ「持続可能な地域医療の実現」の完成版になります(前回の論文はコチラ)。この時期にすでに論文を完成させていることは、前述の通り大きなアドバンテージといえます。今後も、推敲能力を磨き上げ、論文を書いている途中でも間違いに気付けるようになれば完璧です。ローマは一日にして成らずです。一歩ずつ前進し、目標地点にたどり着きましょう。それでは、早速論文を見てみましょう。
(1) 持続可能な医療の実現に向けた課題
1)-1 通信トラフィックの改善(通信環境の観点)
遠隔医療が健康ケアや介護ケアに拡大すると、取り扱うデータ量が増大する。データ量の増加は通信環境を悪化させ、遠隔医療の実施に支障をきたす懸念がある。このため、通信環境の安定化は、遠隔医療を成立させる重要な要件の一つである。よって、通信環境の観点から、通信トラフィックの改善が課題である。
1)-2 医療分野へのDX推進(省力化の観点)
地方都市などで医療従事者不足が顕在化している。これにより、医療従事者の長時間労働が問題となっている。今後の生産年齢人口の減少を踏まえると、現状の問題はますます深刻になる。このような状況の中、デジタル技術を活用するなど、少ない人員で医療サービスを維持し続ける必要がある。よって、省力化の観点から、医療分野へのDX推進が課題である。
1)-3 高齢者見守りシステムの実装(介護の観点)
少子高齢化の進行に伴い、一人暮らし高齢者は増加傾向にある(2050年に20%超の予測)。一人暮らし高齢者は、自覚のない認知症や、フレイル状態になるおそれがある。これらの予兆を電力使用量データやウェアラブルデバイスの活動データ等から早期発見することで、効率的な介護ケアが可能となり、要介護度の上昇を抑制できる。よって、介護の観点から、高齢者見守りシステムの実装が課題である。
(2) 最も重要な課題と解決策
最も重要な課題:1)-1通信トラフィックの改善
理由:他の2つの課題解決においてもデータ量の増大が予測され、これらより先に取り組むべきと考えた。
2)-1 エッジコンピューティングの活用
デバイスに近い端末(エッジ)が、ウェアラブルデバイスで計測した心拍数等の生体情報をリアルタイムで分析し、異常値検出時には警報を送信する。また、エッジ側で計測データの圧縮も行う。さらに、クラウドでは、データの長期保存やAIによる介護リスク予測等を行う。このように、エッジ側で処理するデータを増加させ、クラウドには必要なデータのみを送信する。
2)-2 MQTTプロトコル通信の採用
帯域の圧迫を避けるため、軽量・非同期通信可能なMQTT通信を採用する。例えば、ウェアラブルデバイスの情報を複数の医療従事者に送信する際、MQTT通信は受信側の応答を待たずに一度のパブリッシュで送信完了となり、再送信の負荷を低減することができる。
2)-3 強靭な5G通信網の構築と活用
高速大容量・低遅延通信などの特徴を持つ5G通信網を構築し、強靭で安定した通信環境を提供する※。さらに、ネットワークスライシングを活用し、医療関係のトラフィックを一般通信と異なるスライスに分割する。これにより、即時性と信頼性に特化した医療専用の通信環境を構築する。
※ 本論文は完成で良いと思います。しかし、今さらですが、ここだけがどうしても気になってしまいました。通信トラフィックの改善ですから、需要側のコントロールだと考えます。しかし、5G網の構築は供給側のコントロールに感じます。つまり、通信トラフィックの改善(データ量を小さくすること)ではなく、通信容量の改善(データ量をいっぱい流せるようにすること)になっています。よって、後述のスライスに分割すること(分割はデータ量を小さくすることになる)だけを記述した方がよいと思います。
(3) 新たに生じうるリスクと対策
3)-1 新たに生じうるリスク
エッジデバイスの増加やデータ処理のための計算量増加により、電磁環境が複雑化する。これによる、予期せぬ電磁障害(EMC障害)がリスクとなる。
3)-2 対策
エッジデバイスを設計する際、低インピーダンスのグラウンド設計、シールド配線採用などのEMC設計手法に基づき、エミッション(EMI)と耐性(EMS)の両観点でEMC規格に適合するよう設計する。また、既存機器のEMSを調査し、特に敏感な機器に対しては電源線へのEMIフィルタ追加など尤度を持った対策を行う。
(4) 技術者としての倫理・社会の持続可能性
4)-1 技術者としての倫理の要件
公衆の安全を第一に考えることが要件である。新技術の導入にあたって、信頼性を考慮し安全性を最優先で確保する。特に、通信におけるプライバシー保護に留意し、MQTTプロトコルの通信には必ずSSL/TLSを併用し暗号化通信を行う。
4)-2 社会の持続可能性の要件
新技術開発と導入にあたって、長期的視点を持つことが要件である。限られた資金と労働力で長期にわたって維持管理の可能なシステム設計を行う。また、新技術は現行システムを運用しながらの段階的導入とし、医療業務の中断を招かないよう留意する。 以上__