-インフラの海外展開-チェックバック①
【 技術士 二次試験対策】
人口減少などを背景に内需が縮小していく中、日本の優れたインフラシステムを海外へ輸出することは、国内外から求められています。そんな背景の中、投稿されたのは「インフラの海外展開」のチェックバックです。
国は、平成30年に「海外インフラ展開法」を制定しています。この法律では、海外社会資本事業へ参入促進に係る基本方針の策定や、所管する独立行政法人等が案件・維持管理に取り組むことができる体制を整備することを定めています。
基本方針の概要は、以下の通りです。
①参入促進の意義
- 新興国を中心とした世界の膨大なインフラ需要を取り込むことが、我が国経済の成長にとって重要
- 相手国のインフラ整備が進むことで、相手国における経済・社会的な基盤の強化が進展
- 日本の先進的な技術・ノウハウ・制度等の移転によるソフトパワーの強化、外交的地位の向上
②参入促進の方法
- 案件形成段階から独立行政法人等の公的機関が積極的に関与し、日本の質の高いインフラを効果的にアピールする等により、我が国事業者が参入しやすい環境づくりを実現
- 高速鉄道と都市開発を一体的に行う等の面的開発に積極的に関与
- 我が国が優位性のある技術を活かしつつも、相手国のニーズに応じてカスタマイズ
- 海外市場に進出する企業の裾野拡大と継続的支援
③各独立行政法人等の海外業務の考え方・具体的内容
④関係者の連携・強力
⑤その他
方針の①を活用して背景を述べ、②で課題整理といった感じですかね。結構、難しい問題です。
では、早速論文をみてみましょう。
1.多面的な課題とその観点
(1)いかに、既存DX技術の機能向上を図るか
インフラの海外展開にあたり、データを多国間に跨って共有・利活用することが不可欠である①。そのためには、DFFTの推進を図ると共に我が国に存在する既存DX技術の機能向上が求められる②。近年では、我が国建設分野の各プロセスにおいてDX技術導入は進んでいるが、一定の自然条件下では使用不可となるものも存在する③。よって、機能面の観点からいかにDX技術の性能を向上するかが課題である④。
① 不可欠である理由が共有できていないと思います。その上で、後述はこれを前提としているため、全体の主張も疑問符がついてしまいます。
② データ共有の必要性から、DX技術(これもどんな技術なのか分かりません)の機能向上に変化していますね。データ共有とDX技術との関連性が不明なまま、課題はDX技術の性能(これも機能と性能とゆれています)を向上としてはバラバラな印象を受けます。
③ 抽象的で、どういうことなのか分かりません。
④ ②のとおり、機能と性能に使い分けがないのであれば、機能面の観点から機能を向上させるとなり、観点と課題が同じになっています。
(2)いかに、国内の体制を整備するか
我が国の技術基準・規格類が相手国に採用されるよう、普及拡大に向けた取り組みが求められる⑤。そのためには、技術基準・規格類の英語化・英訳内容の改善に加え、ISO/IEC等の国際標準規格を採用する⑥ことが重要である。よって、体制整備の観点から国内の技術基盤の国際化を推進するかが課題である⑦。
⑤ 日本の技術基準の普及が求められているのですか。インフラ技術の普及が目的ではないのですか。
⑥ 基準の普及といっていますが、ここでは国際基準を採用と言っています。不整合ですね。
⑦ 背景で体制に触れていないにも関わらず、タイトルは体制が課題となっています。また、文中では観点として体制を扱っています。どれが言いたいことでしょう。
(3)いかに、海外実績を有する技術者を確保するか
我が国企業のインフラ海外展開を進める上で⑧、海外インフラプロジェクトに従事する人材の確保が重要である。しかし、国内の公共工事において海外施工実績を活かすことは難しい。また、国内・海外の双方での事業に従事することも困難である。よって、人材面の観点からいかに技術者が海外に進出しやすい環境を整備するか⑨が課題である。
⑧ 分かりにくい表現に感じます。「我が国のインフラ技術を海外に展開する上で」としてはいかがでしょうか。
⑨ タイトルと内容が異なっています。
2.最重要課題とその解決策
上記の内、「いかに、既存DX技術の機能向上を図るか」を最重要課題に選定し、以下に解決策を示す。
(1)建設機械の機能向上
①全天候ドローン:災害時や悪天候時等、現場へのアクセスが困難な調査を要する際に全天候型ドローンを導入する。また、航空レーザー測量⑩による3D点群データを取得・処理することで、過酷な現場測量の効率化を推進する⑪。さらに、取得データとGIS情報を併合⑫して地図を作製し、現場状況の情報化を図る。
⑩ タイトルは、建設機械の機能向上ですし、小見出しはドローンとなっているのに、航空レーダー測量の事例はマッチしないと思います。
⑪ 「効率化を推進する」→「効率化を図る」
⑫ ⑩と同様。
②無人施工化:建機への無人化操縦システムを導入し現場施工の無人化を図る⑬。加えて、重機にセンサー及びAIカメラを搭載することでデータを取得し、遠隔操作地でのコントロールを実現する⑭。無人施工にはリアルタイムで建機の傾きや振動を把握する必要があることから、ローカル5G環境を整備する。これらにより、過酷な環境下でも運用自由度の高い⑮遠隔施工を推進する。
⑬ 「無人化操縦システムを導入し、・・・無人化を図る」との表現は無人化が重複しています。
⑭ 接続詞に「加えて」とあるので、無人化した上でのグレードアップを説明しているのですよね。無人化操縦システムなのに「遠隔操作」していては、無人化操縦システムではないと思います(タイトルも無人施工化)。カメラも遠隔操作を可能にするためのデバイスであるならば、AIである必要性も良く分かりません。
⑮ これは何を言いたいのでしょうか。
(2)デジタルツインの活用
①リスクの低減:仮想空間上で、あらゆる施工条件下でのシミュレートにより施工リスクの検証を行う。また、GIS情報をゲームエンジンに取り込み自然災害等のインフラに降りかかるリスクを抽出する⑯。これらにより、設計時からリスクを低減した計画を推進する。
②分散型電力供給:地域マイクログリッドの導入時における発電能力を向上させるため、PLATEAU上で発電量をシミュレーションする。例えば、対応工パネルの最適配置の検討や3D都市モデルからビル風をシミュレートし、安定した風力発電を行えるポイントの割り出しとうに活用する。これらにより、効率的なマイクログリッドを計画し電力レジリエンス強化⑰を図る。
⑯ インフラに降りかかるリスクとは、施工後の供用開始以降の話をしていますか。前述のシミュレーションとは異なるものなのでしょうか。想定ケースが理解できません。さらに、仮想空間はGIS情報をゲームエンジンに取り込む必要はないのですか。漠然とした理解はできるものの、何をするのかが伝わってきません。
⑰ 発電の効率化を図ることはできますが、効率的なマイクログリッドとは何を言いたいのでしょうか。電力は需給バランスの調整が肝です。さらに、「電力レジリエンスの強化」とありますが、防災が目的になっていませんか。DX技術の機能向上を図ることを目的とした解決策であるべきです。
3.波及効果と新たな懸念事項及びその対応策
波及効果:解決策の実行により、我が国の技術優位性が示されることで、製造・加工技術等の多分野についても海外展開が期待できる⑱。また、DX機能向上により⑲建設分野でのCO2排出量の削減が推進され、カーボンニュートラル達成への寄与が期待できる。
⑱ 根拠が明確でなく、効果に疑義を感じます。
⑲ DX機能向上がなぜCO2削減につながるのか理由をしっかり書きましょう。
懸念事項:他国との更なる技術競争の発展により、他国の技術力向上や安価化が促進され、コスト面での競争に劣ることが懸念される。また、急な現地政権の変化により事業が停止する可能性がある⑳。
⑳ コスト面で劣ると結論付ける根拠が不明確です。また、政権の変化はリスクであり、解決策によって生じる懸念事項ではないと思います。
対応策:事業に必要な資機材の調達や技術人材の現地化㉑を推進しコスト縮減を図る。また、現地ネットワークを有する企業と連携し3D都市空間を通じて現地人材と遠隔交流を行い㉒事業への理解促進を図る。これにより持続的にインフラ整備を行える環境を整備する㉓。
㉑ 論文全体で言えることですが、○○化と表現が多用されており(癖になっています)、読みづらく感じるものもあります。これもそのケースで、「事業に必要な資機材や技術者を現地で調達しコスト縮減を図る。」で良いと思います。今すぐにできる対応であり、実際、現地で調達できるものは手配しているのではありませんか。
㉒ 3D都市空間での遠隔交流とは何をイメージしているのでしょうか。リモート会議とかではダメで、3D都市空間を通じて交流を行う意図が分かりません。
㉓ 懸念事項に対する回答になっていないと思います。
4.業務を遂行するに当たり、留意する点
常に社会全体における小易を確保する観点と、安全・按針なインフラを整備して持続し続ける観点を持つ必要がある。業務の各プロセスにおいて、常にこれらを意識するように留意する。 以上