添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
選択科目Ⅲは専門的内容に全振り
これまで、選択科目Ⅲは必須科目Ⅰとは違い、深い専門知識が求められるということを繰り返し述べてきました。しかし、最近のよく送られてくる選択科目Ⅲの論文を拝読させていただくと、のきなみ専門的記述が不足しています。
選択科目Ⅲは、課題から新たなリスクまで、すべてのパラグラフにおいて専門的記述が必要です。これを肝に銘じ、記述するよう細心の注意を払いましょう。頭のてっぺんから、つま先まで専門的な記述で埋め尽くすことが必要なのです。
では、深い専門知識って何なのかということを理解する必要があります。技術士試験における専門知識は、みなさんがそれぞれ蓄積されてきたニッチな情報・知識ではありません。求められている専門知識は、建設部門で言えば国土交通省が推進している政策になります。
みなさんが持っているニッチな情報を書いても良いですが、必ず国の政策に紐づけて書く必要があります。こんな知識を知っているんだぞという姿勢は必要なものの、これが政策に関係ない事柄であれば、得点につながらないということです。
例えば、公園の整備内容を説明し、その内容がどんなにすばらしいものであっても得点できないです。しつらえを説明するのではなく、グリーンインフラの活用や最近策定された緑の基本方針に即した整備であることを説明すべきという具合です。
さあ、これらを踏まえて、今すぐ!準備した選択科目Ⅲの論文を読み返しましょう。チェックポイントは次の通りです。
- すべてのパラグラフに専門的な視点がありますか?
- 解決策などは国の政策に沿っていますか?
- 具体的な事例は、最新の情報になっていますか?
これを見て、「どうやってチェックしたらいいのだろう」と感じてしまった人は、圧倒的に専門的知識(国の政策への理解)が不足しています。建設部門の人であれば、国土交通省所管の審議会・委員会の活用内容を把握することをお勧めします(審議会等の活動記録はコチラ)。
「景観まちづくり」 初稿
本日お届けする添削LIVEは、建設部門 都市及び地方計画の選択科目Ⅲの予想問題「景観まちづくり」です。2024年は景観法制定20 周年ですから、注目のテーマです。景観まちづくりに対する知識の普及・啓発を図ろうとしている国からすれば、技術士試験の問題も景観で!ということが予想されます。実にきな臭いですね。それでは、早速論文を見ていきましょう。
9 建設部門【選択科目Ⅲ】
Ⅰ 次の2問題(Ⅲ-1,Ⅲ-2)のうち1問題を選び回答せよ。(解答問題番号を明記し、答案用紙3枚を用いてまとめよ。)
Ⅲ-1 景観法が制定されてから20年が経過し、多くの地方公共団体で景観計画が策定され、地域特性を生かした良好な景観形成への取組が進められている。他方で、少子高齢化や激甚化・頻発化する気候変動、再生可能エネルギーの活用への注目など、景観行政をとりまく社会状況も大きく変化している。そのため、『景観価値を再構築し、技術力を向上することにより、地域の個性を磨き上げた「質の高い」景観まちづくり』の実現を目指すことが重要となってきている。
このような状況を踏まえ、都市及び地方計画分野の技術者として以下の問に答えよ。
(1)質の高い景観まちづくりを実現するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
1.多面的な課題
(1) いかに機能と美観を調和するか
これまで都市公園や川沿いなどでは、豊かな緑が保全・整備されてきた①。こうした公共空間に隣接するエリアでは、住居や商業などのニーズが高い②反面、雑多な印象や生活感が生じるなど、落ち着いた景観を阻害するケースも多くみられる③。そのため、都市空間と調和した景観形成の推進が必要である。よって、都市環境の観点から、機能と美観の調和が課題④である。
① このパラグラフの主題は「周辺市街地との景観的調和の欠如」にあります。緑の整備が進んでいることを冒頭で述べると、「景観は良好である」と誤解される可能性があります。事実としては正しいものの、文脈上の主題に対しては、論点がややずれている印象を受けます。
② 公園や川沿いは住居や商業などのニーズが一律に高いのですか?場所によるのではないでしょうか。
③ 「雑多な印象や生活感が生じる」とありますが、それだけでは何が問題なのかが曖昧です。
④ 必要性で述べている内容とほぼ同じです。必要性≧観点>課題といった関係性を作り、結論に向けて絞り込んでいく感じで文脈を作ると良いでしょう。なぜ調和させるのかといった考えの上流部分を必要性で説明します。例えば、これまでの文脈を踏まえると「用途の多様性と景観的秩序の両立が求められる」といった具合です。
(2)いかに空間構成を最適化するか
近年の集約型都市構造への転換に伴い、居住・都市機能の集約エリアでは開発行為が進む一方で、集約エリア外では未利用地化の進行が想定される。集約エリア外では、田園など多様な景観資源があるが再エネ施設の立地やスプロール化など、景観の連続性が損なわれる恐れもある⑤。そのため、土地利用の促進と用途規制のバランスをとることが重要である。よって、土地利用の観点から、空間構成の最適化⑥が課題である。
⑤ 未利用地化の懸念と乱開発の懸念が混在しており、一見して正反対のことが主張されているため読み手は混乱してしまいます。どちらかに絞って主張した方が良いでしょう。
⑥ 集約エリア外で土地利用の促進を図る必要性があるのでしょうか。そもそも、集約エリア外に指定されているということは規制とまではいきませんが、一定の誘導がかかっているように思われます。記述内容に違和感があります。
⑦ 景観、土地利用、空間構成の最適化それぞれの関係性が文脈から読み取りにくいです。これらの関係性を浮き彫りにさせる問題点と必要性の記述が必要です。例えば、問題点は「土地利用の変化は、地域固有の景観構造や空間的連続性を分断し、都市全体の景観的質を低下させる」、必要性は「持続可能な景観形成には、土地利用の誘導と規制を通じた空間構成の再編が不可欠」といった文脈で書いてみてはいかがでしょうか。
(3)いかにDX化を推進するか
少子高齢化に伴う人口減少などの影響により、地方自治体は限られた人材の中で、景観行政を推進していく必要がある。このため、質の高い景観まちづくり実現する上では、ICT技術の活用により、景観形成や誘導を効率的に実施していくことが重要⑧である。よって、技術面の観点から、DX化の推進が課題である。
⑧ なぜ質の高い景観街づくりをするためにICT技術の活用が重要なのですか。また、限られた人材という前段の記述の関係性も分かりません。これは、文章の構成があまりよくないからだと思います。背景の内容は、必要性や重要性のみで、理由を示す現状や問題点の指摘がないからです。例えば、人材制約【現状】、人手依存型の景観誘導の限界【問題点】、ICTや3D都市モデルによる効率的な景観形成支援【必要性】、都市運営(都市マネジメント)の観点+DX推進【結論】といった流れでどうでしょうか。
2.最も重要な課題と解決策
積極的な景観価値の創出⑨は、地域活性化に直結するため「いかに機能と美観を調和するか」を最も重要な課題に選定し、以下に解決策を述べる。
⑨ どの課題も質の高い景観まちづくりを実現するに当たっての課題なのですから、積極的な景観価値の創出になるのではありませんか。この状況で機能と美観を調和のみが価値を創出すると言われても主観的な主張に聞こえます。
(1)デジタルツイン
解像度の高い景観計画の検討や景観協議の円滑化を実現するため、PLATEAUにより都市を原寸でバーチャル空間に再現する⑩。再現するうえでは、BIMモデルのインポート機能や広告物等のアセット配置機能を具備する⑪。加えて、ランドマーク等の特定ポイントを起点とした全方位的な見通し機能や、建築物の高さ・色彩を任意で制限する変更機能を実装する⑫。これにより、高さや色彩制限、眺望規制などの影響範囲を鮮明なビジュアルで3次元的に把握可能となる⑬。再限度の高い景観シミュレーションにより、高品質な景観計画の策定や効率的な景観協議が期待できる⑭。
(2)グリーンインフラ
グリーンインフラを建築物にビルトインし、都市空間と緑地機能の調和を図る⑮。例えば、建築物の屋上や壁面への緑化を推進する。併せて、屋内外の空間で連続的に緑を配置するバイオフィリックデザインを導入する。このようなビルトインにより、都市空間の美観の向上が期待できるほか⑯、遮熱効果による空調の省エネ化や温室効果ガスの吸収、ウェルビーイング向上⑰などの相乗効果も期待できる。
⑮ 「都市空間における緑の面的連続性と環境性能の向上を図るため」といった具合に、行動の目的が欲しいです。
⑯ →「都市景観の質的向上に加え」
⑰ →「居住者のウェルビーイング向上」
(3)AIによる景観評価
従来、設計者等が作成した図面を基に検証していた景観評価を、AIを通じてイメージ共有を図ることで、効果的な議論を活発化させる⑱。例えば、景観協議会などで出た意見は、その場で生成AIにプロンプトを入力し、イメージ画像の生成や色彩変更を試みる⑲。さらにAIに対しては、建築物や自然等の写真を学習させ、色彩・エッジ・場所などの条件を数値評価できるようにする。景観が及ぼす人間の印象判断を学習したAIの印象評価により、質の高い景観を創出する設計が可能となる⑳。これらは、景観検討の際に即座にイメージや評価の共有が可能となり、円滑な合意形成に資するものとなる。
⑱ 設計者等が作成した図面とは何の図面なのでしょうか。また、検証していた景観評価という表現も違和感があります。さらに、効果的な議論とは一体何なのでしょうか。言いたいことがよく分かりません。
⑲ 解決策なので、試みるという表現は房悪しくないと考えます。
⑳ 色彩・エッジ・場所というパラメーターは少々分かりづらいです。また、なぜ数値化するのかも書きましょう。また、可能性ではなくやることとして書きましょう。
→「AIに景観画像を学習させ、色彩構成や緑視率、印象評価などを数値化することで、主観的な印象を客観的に補完し、説得力のある景観設計を支援する」
3.新たなリスクと対応策
マニュアル化された景観整備によって、単調化されたパターン配置になるなど、デザインの画一化を招くリスクが生じる。
対応策として、グリーンインフラなどの緑地整備にあたっては、パラメトリックデザインを採用する。具体的には、3Dモデル上において、緑地配置検討に伴う色彩・形状・角度・材料などの要素のパラメーター化を行う。その上で、柔軟に数値パラメーターを変更することにより、デザインを修正していく㉑。このような緑地の配置をデザインすることにより、ランダムな採光などを創出する。 以上
㉑ 景観要素の数値化は、(3)AIによる景観評価で行うのではありませんか。
「景観まちづくり」 完成
1.多面的な課題
(1) いかに機能と美観を調和するか
我が国の都市は、都市計画法に基づく用途地域制度により機能的に整備されてきた。一方で、景観は地域の歴史や文化、自然環境など多様な要素から成り立ち、画一的なゾーニングでは、再開発や大規模建築により調和しないケースがある。そのため、用途の多様性と景観的秩序の両立が求められる。よって、都市環境の観点から、機能と美観の調和が課題である。
(2)いかに空間構成を最適化するか
近年、立地適正化計画の導入が全国で進み、都市機能の集約と土地利用の見直しが加速している。このような土地利用の変化は、固有の景観構造や空間的連続性を分断し、都市景観の質的低下を招く恐れがある。持続可能な景観形成の実現には、土地利用の誘導と規制を通じた空間構成の再編が重要である。よって、土地利用の観点から、空間構成の最適化を図る統合的なマネジメントが課題である。
(3)いかにDX化を推進するか
人口減少などの影響によって、地方自治体では限られた人材で景観行政を推進する必要がある。従来の労働集約な景観誘導では対応が困難となりつつある。そのため、ICTや3D都市モデルを活用し、業務の効率化と景観形成支援の高度化が求められている。よって、都市運営の観点から、DX化の推進が課題である。
2.最も重要な課題と解決策
住民の地域への愛着を高め、持続可能な地域活性化を実現するため「いかに機能と美観を調和するか」を最も重要な課題に選定し、以下に解決策を述べる。
(1)デジタルツイン
景観形成における合意形成の質を高めるため、3D都市モデルを活用し、建物の高さや影の影響を可視化する景観シミュレーションを行う。例えば、LOD1・2の建物情報から3D景観を作成する。加えて、眺望検証機能や高さ・色彩の変更機能を備える。これにより、高さ制限などの規制確認が容易にするとともに、視点場の指定によって、人間の可視・不可視範囲の把握を可能にする。この機能を用いることで、景観協議において影響範囲を直感的に共有でき、周辺環境との調和を重視した合意形成が促進される。
(2)グリーンインフラ
都市空間における緑の面的連続性と、環境性の向上を図るため、建築計画段階から屋上や壁面への緑化を組み込み、都市空間にグリーンインフラをビルトインする設計手法を推進する。具体的には、屋内外の空間で連続的に緑を配置するバイオフィリックデザインを導入し、都市空間と緑地機能の調和を図る。これにより、都市景観の質的向上に加え、遮熱効果による省エネ化や温室効果ガスの吸収、居住者のウェルビーイング向上などの相乗効果も期待できる。
(3)AIによる景観評価
景観検討における主観的印象の偏りを補い、客観的なイメージ共有と合意形成を促進するため、AIを活用した景観評価手法の導入が有効である。そのため、深層学習モデルを用いて景観画像の色彩構成や緑視率、印象評価などを数値化し、定量的な評価を行う。さらに、景観協議の場では、生成AIにより意見を即時にビジュアル化し、色彩や構成の変更案を提示する。PLATEAUの3D都市モデルと連携すれば、現実の都市空間を反映した高精度な景観シミュレーションが可能となり、説得力ある景観設計と円滑な合意形成が促進される。
3.新たなリスクと対応策
マニュアル化された景観整備によって、画一的なパターン配置を助長し、空間の単調化を招くリスクが生じる。
対応策として、パラメトリックデザインをランドスケープ設計に応用することで、環境条件に応じた有機的かつ多様な緑地空間の創出を図る。例えば、LiDAR等で取得した地形データをもとに、日照、通風、傾斜などの環境要素を数値パラメーターとして設定し、植栽の種類や配置密度、樹高などを動的に最適化する。これにより、複雑な地形や自然条件に即した柔軟な設計が実現し、空間に多様な光環境や視覚的変化をもたらす景観形成を可能とする。 以上