-働き方改革-
【 技術士 二次試験対】
レア論文が連続します。選択科目Ⅲにおける「働き方改革」です。働き方改革は、一般に「働く人がそれぞれの事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようになるために、政府が行っている法改正などの取り組みのこと」と理解します。
問題の出され方にもよりますが、論文の多くは建設業界の労働改善といった内容が散見され、論点ズレが危惧されます。
国交省のHPにある「建設業働き方改革加速化プログラム」に以下のような記述があります。
(1)長時間労働の是正に関する取組
[1]週休2日制の導入を後押しする
[2]各発注者の特性を踏まえた適正な工期設定を推進する
(2)給与・社会保険に関する取組
[1]技能や経験にふさわしい処遇(給与)を実現する
[2]社会保険への加入を建設業を営む上でのミニマム・スタンダードにする
(3)生産性向上に関する取組
[1]生産性の向上に取り組む建設企業を後押しする
[2]仕事を効率化する
[3]限られた人材・資機材の効率的な活用を促進する
これでは、労働環境の改善=働き方改革と理解してしまいますよね。「これまで、異常だった労働環境が、普通になるだけじゃないか」と思ってしまいます。しかし、不平を言ってもはじまりません。
対策としては、この普通の状態にすることで、多様で柔軟な働き方ができますよという結論とするしかありません。例えば、柔軟な働き方ができるように、短時間労働を実現する(方法論は長時間労働の是正と同じ)といった具合ですかね。
このように考えると、この問題は難しいといえます。
さあ、この難問にどのように解答しているか見てみましょう。
【働き方改革】
1.多面的な課題とその観点
(1)いかに労働生産性を向上させるか
厚生労働省における令和5年3月時点の勤労統計調査によれば、建設業の月あたり労働時間は167.8時間である。また、出勤日数は20.5日であり、他産業の中で最も実労働時間が多い①。これらは、不十分な工期設定②や複雑で精密な作業環境の影響③が大きい。よって、長時間労働の常態化を是正する④観点から労働生産性の向上を推進するか⑤が課題である。
① 「多い」→「長い」
② 生産性の向上と因果関係がないと思います。
③ 「作業環境の影響」→「作業を求められることによる影響」
④ 解決策のように見えるので、「効率化する」、「合理化を図る」などどうでしょうか。
⑤ 端的に表現した方が良いと思いますので、削除。
(2)いかに人材不足を解消するか
人口減少に伴う生産年齢人口の減少や高齢者の増加により、技術者が不足している。加えて、学生の理科離れの深刻化により若手技術者の確保も困難化している⑥。また、建設業許可の維持には実務経験を要する技術者の配置が求められるが、人材確保が難しい中で廃業が危惧される中小企業も存在する。よって、人材面の観点からいかに技術者を確保⑦するかが課題である。
⑥ 「困難化している」→「難しくなっている」
⑦ 前段で技術者不足を説明していますが、技術者確保することと働き方改革することとどのような関係があるのでしょうか。課題設定に疑義があります。⑤と同様、「技術者の確保が課題」。
(3)いかに誰もが働きやすい環境を整備するか
他の産業と比較しても建設業では男性比率が高く、長く男性主体の状態が続いている。また、現場のトイレ環境問題や勤務形態の複雑化⑧により女性や子育て世代の入職が進んでいない。一方で、技術者の高齢化による大量退職を控えており担い手の確保が求められている⑨。よって、就労促進の観点から女性や子育て世代⑩が働きやすい労働環境を整備するかが⑪課題である。
⑧ 勤務形態の複雑化とはどのような状態か分かりません。不規則ということですかね。
⑨ (2)の問題点ではないでしょうか。
⑩ タイトルでは、「誰もが」とありますので、限定されていることに違和感があります。
⑪ ⑤と同様、「働きやすい労働環境の整備が課題」
2.最も重要と考える課題とその解決策
⑫上記のうち、「いかに労働生産性を向上させるか」を最も重要な課題に選定し、以下に解決策を示す。
⑫ 要スペース。
(1)発注工事の是正⑬
週休2日工事の拡大:工期設定システムの活用により歩掛毎の標準的な作業日数を自動算出し、適正な工期設定⑭を行う。また、受発注間では工事行程のクリティカルパスへ関連する課題に対し、対応者及び対応時期のルール化を図る⑮。さらに、工事日数の延長に伴う経費増加に対し、共通仮設費及び現場管理費の率を補正し、コスト増加に対応する⑯。これらにより、受注者側の休日確保を考慮した発注⑰を行い、休日を確保する。
⑬ 何を言い表したいのか分かりにくいです。「休日確保に配慮した発注」ですかね。
⑭ 自動ではなかったですが、日当たり施工量から適正に工期設定することは昔からやっていますよ。よって、適正な工期設定をすることは当たり前です(不適切な工期設定をしているように見えます)。
⑮ 抽象的で分かりづらいです。どのような課題なのか、どんなルールなのか具体があると良いと思います。
⑯ 工期延伸に伴う費用を支払うのは当たり前ですし、生産性の向上にどうしてつながるのか分かりません。
⑰ 適切な工期設定と支払いで、休日が確保できるのか説明が必要です。
BIM/CIMの活用促進:土木事業においては⑱、複数業務・工事が平行して実施され、多くの修正が発生する。そのため、3次元モデルの活用により施工プロセスのリスクを共有する。併せて、プレキャストの採用を前提とした設計・積算⑲を図ることで、効率的な施工管理を推進する。さらに、図面等の成果データを共通のプラットフォームに保管することで、必要とする情報に関係者が何処でもアクセス可能⑳にする。これらにより手戻りのない円滑な受発注業務を推進㉑する。
⑱ 業務の並行実施は、土木工事に限りません。そもそも、BIMとタイトルにあります。
⑲ タイトルにBIM/CIMとあるのに、プレキャストの説明をするのは違和感があります。
⑳ これも、BIM/CIMの関連性を説明する必要があります。
㉑ このまとめの文もBIM/CIMとの関連性不明です。
(2)建設DXの推進
デジタルツイン化:現場状況を3Dデータ化し、クラウド上で共有することで、リモートワークを推進する。具体的には、重機遠隔操作システムの導入により、建設機械操縦のリモート化を図る。スマートフォンやパソコン上での操作を可能とすることで、遠隔地からの作業を実現する㉒。また、遠隔臨場システムを併せて㉓導入する。映像と音声の同時配信によって㉔現場作業員に指示し、オンライン会議にて立ち合い検査を行う。これらにより、現場までの移動時間を生産時間に変化させ、業務効率化を推進する㉕。
㉒ 前の文章と同じことを言っていませんか。
㉓ 重機遠隔操作システムと併せて導入する必然性が分かりません。
㉔ 特筆するような内容ではないと思います。
㉕ BIM/CIMもそうでしたが、この項目ではデジタルツインの話をすべきです。
(3)働きやすい環境の整備
ZEB化の推進㉕:建物の外装に高性能断熱性パネルと複層ガラスの横連窓を採用し、執務内で外気の影響を受けにくくする。加えて、自然採光の確保及び自然換気機能の整備により、過度な空調利用を低減させる。さらに、これらをヒューマンセンサーによって自動制御することで、執務内の体感温度や活動に併せた温度管理を図る。これらにより、知的生産性及び意欲の向上を図り、時間外労働の削減を推進する。
㉕ ZEBの説明がほとんどないこと、執務環境の改善は一般論すぎて建設技術的な観点が足りないと思います。
※解決策の見直しが必要ですね。
3.波及効果と懸念事項、及びその対応策
波及効果:解決策の実行により移動時間が縮減され、温室効果ガスの削減㉖といった波及効果が期待できる。
懸念事項:都市から地方への人口流入が促進され㉗、空きオフィス等の低利用ストックが増加する懸念がある。
対応策:余剰施設に認可保育所を整備することで、リモートワークを行う子育て世代が急に出社した場合㉘でも安心して預かられる環境づくりを推進する。仕事と育児の両立による社員の定着率向上を図る㉙。 以上
㉖ 間違いではありませんが、ピンときません。生産性の向上に連動する波及効果は、コスト削減が最も相性が良いと思います。
㉗ 懸念事項というより、メリットに見えます。
㉘ 例示では、通常時はリモートワークしているので、オフィスの空洞化を防ぐ対応策になっているのですかね。利用できる場面も、特殊ケースすぎます。
㉙ 問題は定着率の低さではなく、オフィス等の低利用ストックが増加すること(この表現も分かりづらいです→オフィスの空洞化)ですよ。論点がずれています。