添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
文脈
みなさんは、論文を書く時何に注意していますか。誤字脱字、主語述語の関係、重複表現・・・注意事項は沢山あるのですが、最近気になるのは「文脈」です。文脈とは、文のつながりです。文章の筋道と言ってもよいでしょう。
この文脈を意識すると、文章スキルが一気に高まります。文脈を意識するとは、どのようなことなのでしょうか。例えば、「近年、災害が激甚化・頻発化している。インフラを維持管理する担い手が不足している。技術面の観点から、建設DX化が課題である。」という文章を読んでどのように感じたでしょか。
バラバラですよね。言っていることは何となく分かるのですが、いちいち「何で?」という疑問がついてまわります。気持ちが前のめりになりすぎて、説明をすっ飛ばしています。文と文のつながりが希薄で、思いついたまま書いているように見えます。これでは、分かりやすい文章とは言えないですよね。
そこで、文と文の関係が分かるように、つないであげる文を挿入すると文脈をきれいに通すことができます。例示を修正してみましょう。「近年、災害が激甚化・頻発化している。このような災害に対応するためには、インフラの適正な管理が必要である。しかし、インフラを維持管理する担い手が不足している。この担い手不足を解決するために、生産性を向上させるデジタル技術の活用が求められている。よって、技術面の観点から、建設DX化が課題である。」となります。
どうですか、前後の文の関係性が明確になり、文に流れが出てきましたよね。また、接続詞を上手に使えば、次にどんな展開になるのかあらかじめ分かるので、読み手の理解を助けリズムを作ってくれます。特に課題パートできれいな流れを作るためには、合いの手のような接続詞と王道の起承転結といった文章構成を用いると良いでしょう(具体的な例示は解体新書参照【課題編】)。
起:近年、災害が激甚化・頻発化している。このような災害に対応するためには、インフラの適正な管理が必要である。【現状】
承:しかし、インフラを維持管理する担い手が不足している。【問題点】
転:この担い手不足を解決するために、生産性を向上させるデジタル技術の活用が求められている。【可能性・必要性】
結:よって、技術面の観点から、建設DX化が課題である。【課題】
この流れが作ることができれば、論理的に筋道を示すことができます。まずは、前後の文がつながっているか意識して書くことから始めましょう!
論文
本日の論文は、建設部門 河川砂防の選択科目Ⅲ「渇水への対応策」になります。流域治水が注目される中、この渇水対策は、非常に参考になる論文と言えます。また、河川の知識は災害対策で必須と考えます。論文スキルアップとともに、知識の蓄積にも役立ちます。では、早速論文を見てみましょう。
問題
(1) 気候変動による渇水への対応策を講じるにあたって,技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し,それぞれの観点を明記した上で、課題の内容を示せ。
(2) 前問(1) で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題の解決策を複数示せ。
(3) 前問(2) で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
課題
1.多面的な観点から課題を3つ
(1)いかに渇水を防ぐか:複合的対策の観点
気候変動の影響で、短時間強雨の発生頻度が増加している。一方で、無降水日の年間日数は100年間で約10日増加している。これによって山岳地の降雪量が減少している。近年の日本の流域は、山林荒廃による保水力低下および都市化で河川への流出速度が増加している。また、急流河川が多く海への到達も速いため、渇水のリスクが高い①。一方、治水対策とバランスを保つ必要があるため、様々な対策を複合的に実施する必要がある。よって、複合的対策の観点から、いかに渇水を防ぐかが課題である②。
① 気候変動の現状がたくさん書かれていますが、それぞれの減少がどのような影響をもたらすのか説明がないです。すべて渇水につながっているのであれば、もっと端的に書くべきです(背景にスペースを割きすぎです)。おそらく、要因がたくさんあるから複合的な対策が必要という論調だと思いますが、そういった意図を書かないとただ現象が羅列されているだけに見えてしまいます。→「我が国においては急流河川が多いことに加え、都市化の影響により河川への流出速度も早いことから、相対的に渇水リスクが高い。さらに、無降水日は増加傾向にあり、山岳における積雪量が減少するなど、渇水を引き起こす要因も増えている。」
② 問題文が「渇水への対応策」とあり、渇水が起こった時の対応策とも読めますし、渇水そのものを防ぐための対応策とも読めます。どちらなのか、問題が詳細に示されておらず判然としません。後者の場合、この課題は題意そのものであり不適切です。前者の場合であれば、渇水が起きていないので、これまた適切とはいえません。
(2)いかに水質を確保するか:広域での取組の観点
気候変動の影響で、融雪の早期化が顕著になっている。これにより、春先に利用可能な水の量が減少する。春先は多くの生物にとって快適な気温だが、基底流量が少ないと、水深が浅くなり生物が棲みにくくなる。これによって水質が悪化する。これを改善するには、河川ごとの対策ではなく水系全体、広域で対策を行う必要がある②。よって、広域での取組の観点から、いかに水質を確保するかが課題である③。
② 融雪の早期化が問題の原因なのですよね。その対策として、なぜ広域化が必要なのでしょうか。因果関係の説明がなく理解できません。
③ これも、問題が良く分からないので何とも言い難いのですが、水質を確保するために、渇水対策が必要とのロジックであれば理解できますが、渇水対策として水質を確保することは理解できません。渇水が生じた場合の対策ということですかね?
(3)いかに生態系を維持するか:連続性の観点
気候変動の影響で、河川水の蒸発散量の増加が顕著である。基底流量が少ないと、水深が浅くなって水温が上昇する。また、早瀬や死水域が発生しやすくなり、流れの連続性を確保しにくい。生態系を維持するには、安定した水温および適切な流水量を維持し、連続性を確保することが重要である。よって、連続性の観点から、いかに生態系を維持するかが題である④。
④ この課題は、前項の課題と同じではありませんか。「生物の生息環境の維持を持って水質を確保する。」得られる結果は異なりますが、原因、対策は結局同じになりませんか。多面的という条件を満たしていないと思います。
解決策
2.最も重要な課題と複数の解決策
安全と公益を確保するため、「いかに渇水を防ぐか」を最も重要な課題に選定し、以下に解決策を示す。
(1)雨水貯留施設の整備
調整地および建物敷地内の雨水貯留施設の整備を行い、貯留水を渇水時に活用する⑤。渇水対策のみならず、豪雨時の治水施設としても活用できるため、治水面・利水面⑥・渇水面の3つの面で効果が発現できる。
⑤ 活用すするだけでは分かりません。誰が、何に、どのように活用するのか説明が必要です。具体例等を追記しましょう。
⑥ 利水面の効果が述べられていません。
(2)砂防堰堤の活用
砂防堰堤の主な機能は、土砂流出の抑制だが、下記のように活用して限りある水を最適配分することで、渇水を防ぐ。
①貯留水の活用:堰堤機能に支障の無い範囲で、堰堤の貯留水を一時的に農業用水や水道用水等で利用する。
②電力利用:砂防堰堤は山岳地に位置していることが多く標高が高いため、越流水の位置エネルギーを活用して電力に変換し、余った水を適切に配分⑦する。
⑦ 渇水対策なのでしょうか。波及効果であることは理解できますが、課題解決に必要な渇水を防ぐ機能に見えません。
(3)デジタル技術の活用
下記のように、デジタル技術を活用し、渇水を防ぐ。
①気象予測技術によるダム運用の高度化
気象予測技術⑧を用いて、ダムを弾力的に運用する⑨。具体的には、洪水の終わりの見通しが確実と判断できる場合、洪水後期のダムの放流量を減らす操作を行う。計画の利水容量よりも余分に貯留することで、渇水リスクを軽減する⑩。
⑧ 高精度・高頻度・高解像度な気象予測、AI気象予測システムなど、この技術をもっと詳細に説明した方が良いでしょう。
⑨ 「ダムの洪水調節機能を強化し」といった情報を追記しましょう。また、弾力的に運用するためには、ダム再生が必要ではありませんか。選択科目Ⅲは専門的知識を存分にアピールしないと評価が得られませんよ(一般論を脱するための措置を意識的に講じる必要があります)。
⑩ ⑨と同様です。必須科目ⅠならこれでもOKですが、この問題は選択科目Ⅲです。もっと、アンサンブル予測の活用、流域内の利水ダムも含めたダム群で治水・利水の役割をカバー など技術的に踏み込んだ説明を加えると良いでしょう。
②農業用水の水管理
ICTを活用して、農業用水の給水管理を行う。具体的には、スマホ等で圃場の水位管理および給水栓を自動制御し適切に水管理を行い、渇水リスクを軽減する⑪。
⑪ 「具体的には」とあるので、給水管理の説明にすべきです。この文の最後は、軽減するといった効果で終わっていますので、給水管理で一旦文を切ると良いでしょう。→「・・・適切に給水管理を行う。このような利水の効率化により、渇水リスクを軽減する。」
(4)リダンダンシーの確保
下記のように、冗長性・代替性を備えることによって、渇水危機の際に⑫対応する。
①送水管の二重構造化:災害の激甚化⑬を背景として、災害時に幹線水路が被災し送水管が破損した場合を想定する。二重構造にしておくことで、緊急時においても最低限の機能を確保し、渇水リスクを低減する。
②海水淡水化施設の整備:同じく災害時⑬に水道等のライフラインが絶たれた場合を想定する。海水淡水化装置を活用することで、生活用水を確保する。
⑫ →「に」
⑬ これは渇水対策ではなく、断水対策ではありませんか。
リスク
3.新たに生じうるリスクと対応策:以下へ示す。
懸念事項は、ハード整備の充実によって⑭、住民1人1人の節水意識が低下してしまうことである。対応策は、ハード整備と併せてソフト対策も充実させることである。具体的には、渇水対応のマイ・タイムラインを作成し、定期的に啓発活動を続けることで日頃の行動を改善する習慣を付ける。 以上。
⑭ 解決策はハード整備に限りませんし、意識低下を招く要因は渇水リスクの低下(水不足が生じないことによるもの)ではありませんか。