添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
筆記試験の合格発表を終え、望む結果を得られなかったみんさん!諦めず、来年に向けてリスタートを切りましょう。これから、評価結果を含めた通知書が送付されると思いますので、それらの分析を含め、ご自身の弱点を理解しましょう。お手元には、復元論文もご用意されていると思いますので、ぜひご投稿ください。どこが足りないのか添削により、客観視することはとても重要だと考えます。今回の結果も、無駄なく活用し来年の合格に役立てましょう。
さて、今回の投稿は、以前の投稿いただいた令和5年度選択科目Ⅲ「高齢化社会への対応」のチェックバックです。この時期は、時間に余裕があるので、関連トピックを国のHPや白書を使って情報収集しながら進めると良いでしょう。この時期の知識の深堀は、論文作成能力の底上げに効果的です。技術士論文には、定型の書き方や評価されるためのテクニックがありますが、この習得は試験数か月前に行う方が有効です。よって、この時期は、知識の習得(国の施策や考え方を理解すること)に力点を置きましょう。
我が国が抱えている社会問題は、どのような部門を受験しても変わることはありません。今回投稿の高齢化社会への対応も、技術者全員が取り組まなければいけない課題です。投稿者は、どのような解決策を提案しているのか、早速みていきたいと思います。
1.超高齢化社会へ対応するための課題
1.1高齢者の身体機能の支援
戦後の日本復興は多くの技術者により支えられてきた①。その頃からの電力系統連系技術や省エネ技術といった高度な技術や貴重なノウハウは高齢者が多く保有している②。しかし、加齢に伴う身体機能の変化により期待された労働生産性③の維持が難しい場合がある。
そのため、身体的負担の観点からロボット技術等を用いて高齢者の身体機能を支援し労働生産性を維持することが課題である④。
① 戦後の日本復興という背景が、以降の文章にどのように関連しているのか分からないです。戦後の復興だと限定的であり(復興に必要となる技術と読めます)、文意からするに戦後の経済、又は高度経済成長期を言いたいのですかね。
② 「電力系統連系技術とは、自家用発電設備を電力会社の送電網や配電網に接続する技術」とありました。素人考えですが、電力系統連系技術や省エネ技術は、戦後や高度経済成長期に活躍した高齢者が多く保有しているのでしょうか。一般的な印象としては、近年発展した技術のように感じます。
③ 職人技のような習得に時間がかかる属人的な技術ならともかく、例示の技術は次の世代に継承すればよく、身体機能が衰えた高齢者を働かせ続けることが本当に必要なのでしょうか。前段の背景からするに、問題点は技術継承に見えますが、最終的には生産性の維持になってしまっています。文章が上手に繋がっていません。
④ 身体的負担の観点は、どのような見方・立場にたっているのか分かりません。この場合は、「生産性の観点→高齢者の身体機能維持が課題(ロボット云々は解決策)」が言いたいことではないでしょうか。
1.2医療の充実
超高齢化社会における高齢者増加に対し⑤、医療従事者不足が想定される。都会と地方の医療従事者数の差がさらに拡大すると、超高齢化社会を維持する⑥ことが困難となる。
そのため、生活の質の観点から通信ネットワークや情報通信機器⑦を活用し、地域にあまねく隔たりのない⑧医療・介護サービス環境を充実⑨させることが課題である。
⑤ 超高齢化社会と高齢者増加は類似しているので、どちらか一方あれば伝わります。「超高齢化社会においては、・・・」又は、「高齢者の増加に対し・・・」で良いと思います。用語の重複は、マイナス評価になる可能性があります。
⑥ 超高齢化社会は維持しなくていいと思います(解消した方がいいですよね)。言いたいことは、高齢者の社会生活ですかね。
⑦ これも重複しています。通信ネットワークとは、通信回線と通信機器で構成されるものではないでしょうか。よって、通信ネットワークは情報通信機器も含まれていると考えます。
⑧ これも重複しています。あまねく、隔たりのないは類似しているのでどちらか一方で良いと思います。「修飾語は、一つにする」を意識すると重複を防ぎやすいです。
⑨ 環境の充実ではなく、「・・・隔たりのない医療・介護サービスの提供が課題・・・」となるのではないでしょうか。
1.3インフラ強靱化による電力通信の安定供給
高齢者が暮らしやすい生活空間を提供する必要がある⑩。電力設備、送電網、通信施設、病院などのインフラが老朽化や災害に伴い損傷した場合の高齢者のための防災対策を検討する必要がある⑪。
そのため、高齢者の保護の観点からインフラを強靱化し電力通信を安定供給すること⑫が課題である。
⑩ 唐突感があります。必要性を説明する前に背景を語らないと読み手は、なぜ必要なの?となってしまいます。
⑪ この文は、非常に分かりづらいです。主語が、インフラなので述語との関係がおかしいです。「・・・場合」で一回文を切るのであれば、読点を打つべきです。また、「の」が連続していて読みづらさが更に増しています。技術士論文は、文を短くすることを徹底してください。文が長いと主語述語の関係がおかしくなりやすく、ミスの発生率が高くなります。また、根本的なところで、防災対策は、高齢者特有の問題ではなく、万人に該当するのではないでしょうか。高齢者の暮らしやすさを守るために防災対策をするとの論調は、違和感があり賛同が得られないと思います。例えば、身体能力が衰えている高齢者は被災しやすいとか、被害が大きくなりやすいとか高齢者特有の問題にフォーカスする必要があると思います。
⑫ ⑪と同様、電力通信の安定供給が高齢者特有の防災対策にどうして繋がるのか、判然としません。
2.最も重要と考える課題と理由
「医療の充実」が、最も重要な課題と考える。なぜなら、超高齢化社会への対応策として最も早期に実施でき効果も期待⑬できるからである。
⑬ 理由が書いていないので、なぜ早期に実施できるのかが不明です。また、効果も期待できるとの理由は適切でないと思います。他の課題も効果があるから提案しているのですよね(課題とは、問題を解決するために取り組むべきことです)。他の課題は効果がないと言っているようなものです。「最も」が効果にもかかっているのかもしれませんが、どちらとも読める文書は分かりやすい文章とは言えないと思います。
2.1遠隔医療の充実
医療時、測定した生体情報(体温、 血圧、脈拍、尿糖値等)や患者の映像・音声を遠隔地の医師へ情報通信機器・通信ネットワーク⑭を通じ提供する。医師はこの情報を基に情報通信機器を用いることで遠隔医療を実施可能である⑮。
これにより、高齢化に伴う患者通院負担の軽減⑯や医療従事者の偏在に関わらず多くの高齢者に対し医療を実施することができる⑰。
⑭ ⑦と同様。
⑮ 主語述語がおかしいです。「医師は・・・遠隔医療を実施可能である。」→「医師は、・・・遠隔医療が可能となる。」。また、「この情報を基に情報通信機器を用いることで」も表現が気持ち悪いです。修飾語が多いからだと思います。情報通信機器は前段で説明しているので、前提になっていると考えます。よって、端的に「この情報を基に遠隔医療が可能となる。」で良いと思います。
⑯ 高齢化に伴って通院負担が軽減されるわけではありません。言いたいことは「高齢化に伴い顕在化する患者の通院負担を軽減すること」ですかね。助詞の使い方を間違えると違う意味になってしまいます。文脈から想定はできますが、読み手に想像を強要するのは分かりやすい文章とは言えません。
⑰ 近くに病院がないなど利便性が低い状況であっても、医療は受けられるのではないでしょうか。地域偏在による問題は、医療が受けられるか否かではなく、医療サービスの質の問題ではないでしょうか。例えば、最新機器が整った高度医療の提供が地方では難しいといった問題が想定できます。よって、通信ネットワークを活用して最新医療を地方でも利用できる環境整備が必要なのではないでしょうか。そのために通信インフラを強化する、デジタルツイン技術の導入を促進するなどを解決策として論じる視点が必要だと思います。厳しい言い方になりますが、技術的視点に欠けており、一般論を脱していません。
2.2高齢者見守りサービスの導入
2025年には3人に1人が65歳以上の高齢者になると予想され、1人暮らしの高齢者が増加している⑱。ここで、高齢者見守りサービスを導入する。当サービスではルームエアコンや冷蔵庫の稼働状況をクラウド上に送り、離れて暮らす家族がスマートフォンのアプリケーションを介して高齢者の生活状況を見守ることができる⑲。
これにより、離れて暮らす家族は忙しい日常の中でも高齢者の安否状況を容易に見守ることができる⑳。
⑲ 超高齢化社会という背景は、すでに課題のセクションで説明しているので不要です(問題文にも同様の内容があります)。このセクションでは、解決策をしっかり書きましょう(解決策に関する背景なら可)。スペースがもったいないです。
⑳ 「離れて暮らす家族」が主語になってしまうと、「医療・介護サービスの充実」になるのでしょうか。「離れて暮らす家族」→「介護をしている家族」とすべきと考えます。また、スマホによるモニタリングも技術力を示すという観点からは、少々弱い気がします。介護系の視点では、厚労省HPに「介護ロボット導入活用事例集」なるものがあり、結構参考になるものが散見されます。例えば、介護対象者のデータをバイタルセンサで取得し、ケアプランに活用し介護の質を向上させるといった取り組みなど多数の事例があります。技術力の示唆や応用力を高める観点から、この時期は情報収集をしっかり行った方が良いです。この手間を惜しまず取り組めば、論文を書く知識が養われると思います。
㉑ 「これにより」と結論めいた結びとなっていますが、書いてある内容は「見守ることができる」であり、前段の内容と同じです。
2.3強靭な5G網の構築
遠隔医療の充実や高齢者見守りサービスにおける通信ネットワーク利用において㉑、大容量・高速・多数同時接続可能な通信環境が必要である。特に、遠隔医療㉒においては8K高精細度映像データを活用した遠隔手術が実施されるため、決して途切れることのない通信環境が必須である。
そのため、強靭な5G網により安定な㉓通信環境を提供することが重要である。また、5Gが繋がりにくい地域はローカル5Gにより常時通信接続可能とする。
㉑ この書き出しですと、2.1と2.2の解決策を実現させるための手段を説明していること(補足説明)になります。すなわち、第3の解決策になっていません。通信網の強化は解決策になり得ますが、他の解決策と比べるとカテゴリー(階層?)が異なっています。前述の二つは、通信ネットワークを活用したサービスを説明していますが、この項目では通信ネットワークそのものの説明になっています。記述の課題では、「通信ネットワーク・通信機器を活用し」と条件設定がされています。よって、前提条件を無視した通信ネットワークの強靭化を説明することに違和感があります。条件からするにサービスを書くべきです。ただし、サービスでは電気電子の技術力を示しづらいので、課題で条件(手段)を示さず、医療介護データプラットフォームの構築、センシング技術、地方都市への5G網普及、デジタルツインの導入など目的に即した技術的手段を示す方が良いと思います。問題にある専門技術用語を交えての部分を強調する論文とすべきと考えます。
㉒ 遠隔医療という用語は、2.1でも用いられていますが、ここでの意味合いとは異なるように見えます。前者は遠隔診療で、後者は遠隔手術と表現すべきではないでしょうか。双方を包含する意味合いで遠隔医療となるのではありませんか。この部分を遠隔手術とした場合、後に示される「遠隔手術が実施されるため」がおかしいので、修正が必要になります。
㉓ 「安定な」→「安定した」
3.新たに生じうるリスクとそれへの対策
3.1 新たに生じうるリスク
解決策実行に伴う通信ネットワーク化により、常に大量のデータがクラウドへ送信される。大量のデータの送受信はネットワークに多大な負荷をかけるため、医療の充実が進めば進むほどネットワークの維持・管理にかかるコストが膨らむリスクがある㉔。
㉔ 増大するトラフィックに対応するため、帯域拡張する5G網を構築するのではないですか。新たに生じうるリスクなのか疑義があります。5G網の構築をもってしても足りないということですかね。そうであるならば5G網の構築が解決策にならないというパラドックスに陥ってしまいます。
3.2上記への対策(エッジコンピューティングの導入)
端末の近くにサーバを分散配置するエッジコンピューティングを導入する。これにより、患者の生体情報(体温、 血圧、脈拍、尿糖値等)や電子カルテを事前に収集分析し、定められた間隔でサマリー結果のみをクラウドに送信する。その結果、計算処理の効率化に繋がり、データ負荷やデータ通信遅延を抑えることが可能となり、安定した高品質な通信環境を常時構築できる㉕。 以上
㉕ この項目は、分かりやすく技術的な視点もしっかりしていると思います。しかし、前段のリスクはコスト増としていますので、コスト削減に触れる必要があります。よって、「・・・安定した通信環境を確保しつつ、通信ネットワークの維持管理コストも削減できる。」などとしてはいかがですかね。