添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
省エネ基準適合義務化
これまで、予想問題として「複合災害」、「インフラメンテナンス」をテーマにお届けしてきたところです(予想問題は→複合災害、インフラメンテナンス)。予想を考えるうえで重要になるのは、時事を背景として問題は作成されるということです。つまり、業界でアツイ話題を見つけてくることが、予想のポイントです。
建設部門は予想していきますが、他部門の人はこのポイントを踏まえて予想問題&練習論文を作成することをお勧めします。来年度試験作成はすでに着手、または年度内には作成されるのではないでしょうか。よって、最近の注目されている話題は、要注意と言えます。
最近、建設業界をザワつかせている話題の一つとして、省エネ基準適合義務化があります。2022 年6月17日に公布された改正建築物省エネ法により、2025年4月に全ての新築住宅・非住宅への省エネ基準の適合義務化等が行われる予定です。
これまでも、大規模・中規模の非住宅には義務が課せられていたのですが、4月からは住宅、小規模非住宅にも義務が課せられます。さらに、2030年には、ZEH水準の基準が引き上げられます。基準は、屋根・外壁・窓などの断熱の性能に関する基準と、暖冷房、換気、給湯、照明など住宅で使うエネルギー消費量に関する基準があります。
最近は、物価高騰でマンションや建売住宅などもバカ高くなっていますが、2025年4月以降はもっと価格が高騰しそうです。さらに、2024年からは省エネ基準に適合していない物件は、住宅ローン減税の対象から外されてしまいます…
さて、ここからが本題なのですが、これらの取組みはなぜ進められているのか、もうみなさんお分かりですよね。国は、2030年度には温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し、さらには2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目標にしています。いわゆるカーボンニュートラル目標です。
みんな大好きSDGsでは、目標7と13に関連しています。さらに、カーボンニュートラル目標は、世界120以上の国や地域で掲げられています。少々、環境省よりのテーマですが、温室効果ガスによる気候変動、災害の激甚化などカーボンニュートラルの実現は、様々な問題の解決に役立ちます。
30by30もそうですが、2030年というのが大きな目標地点です。あと5年しかありませんから、大急ぎであらゆる取り組みを実施する必要があります。私は、このサイトを立ち上げてから、ずーっとGXがアツイと言ってきましたが、今年も懲りずに注目を声高に訴えます!
よって、近く予想問題第3弾をお届けしたいと思います。どうぞお楽しみに~
論文
本日お届けする論文は、令和6年度 電気電子部門 必須科目Ⅰ「技術の進展と普及」です。省エネといえば、エネルギーを取り扱う電気電子部門の技術者が果たす役割は大きいです。省エネはどの分野でも多少なりとも関わりがありますので、参考になる点も多くあります。みなさん視野を広げ、必須科目攻略の知見を手に入れましょう。それでは、早速論文を見ていきましょう。
( 1 ) 技術課題の抽出
( 1 ) – 1 新技術の費用対効果向上(技術得失の観点)
新しい技術は高性能であるが、成熟した技術に比べ高コストである傾向がある。成熟した技術から新しい技術への置き換えを考える際、メリットが大きくても、コストが高ければ導入することは難しい。また、コストを抑えても、メリットが小さければ導入されない。よって、新しい技術の進展・普及のため、①その費用対効果の向上が課題②である。
① これは題意です。不要。問題文と同じことを書くより、見出しに観点の記述はありますが、課題の前には観点を書いた方が良いでしょう。※以下同様。
② この観点は、技術得失の観点なのですよね。この課題では、コストの観点になっています。「技術得失」という意味を理解しないまま課題を書いているようにと感じます。問題文は、確かに分かりづらいですが、分からないまま書き進めると頓珍漢な解答文になってしまいますよ。技術得失ですから、新技術を導入することによって成熟技術が失われることや、その逆に成熟技術を大切にして新技術を導入できないといったことにより、得られるメリットと失われるメリットがあります。この両メリットを天秤にかけて技術を導入するか否かを決定するというわけです。この技術得失が新技術の進展・普及の妨げにならないような方策を示唆する課題を示す必要があります。例えば、成熟技術を失っても、その損失を最小化する取り組みといった課題が考えられます。損失が小さければ、新技術の普及が加速するという仕組みです。このような理屈に沿った電気電子分野の課題を探しましょう。
( 1 ) – 2 企業規模に応じた技術導入(企業規模の観点)
大企業は資金力と研究開発体制を持ち技術の進展を牽引できるが、ニッチ市場への対応力は弱い③。中小企業は大規模な研究開発はできないが、ニッチな市場④に特化し技術の普及⑤に貢献できる。大企業と中小企業が各々の強みを活かした技術導入⑥をすることで、社会全体で技術の進展と普及を同時に実現⑦できる。よって、企業規模に応じた技術導入が課題⑧である。
③ 対応力の問題ではなく、単純に市場規模が小さいから大企業は手を出さないのではありませんか。
④ ゆれています。「ニッチ市場」または「ニッチな市場」どちらかに統一した方が良いです。また、ニッチ市場の開発=小規模開発との理屈は賛同できません。ニッチであっても大規模な研究開発が必要なケースも想定されます。つまり、研究開発の大小を要因として語るのではなく、大企業が技術開発を先導しつつ、中小企業が市場の隙間を埋めるといった社会の仕組みをつくることを説明すべきと考えます。
⑤ なぜ普及なのですか。開発の話をしているのではありませんか。
⑥ 研究開発の大小が要因ではないと考えますので、強みを生かすということについても釈然としません。
⑦ ⑤のとおり、普及に関する説明がないと思います。よって。同時といわれても違和感があります。
⑧ 企業規模が観点なのでから企業規模に応じたとの記述は重複しているように感じます。また、これまでは開発について、説明していたにもかかわらず課題になると「導入」になっており不整合です。④のとおり、記述にあるニッチ戦略を中小企業に普及させることが、隙間のない技術の進展につながるといった文脈がこの内容にはふさわしいと思います。
( 1 ) – 3 技術導入のロードマップ策定(道筋の観点)
技術は常に進歩しており、現在の新しい技術も将来的には陳腐化する。競争力維持のためには、継続的に新しい技術を導入する必要がある⑨。また、新しい技術の導入にあたり、その効果を最大化するため人材育成やDX等の組織改革も併せて行う必要がある。このように新しい技術の導入には長期的な視点が欠かせない。
よって、技術導入のロードマップ策定が課題⑩である。
⑨ これは、技術の進展と普及という問題の背景ではありませんか。書くべきは、ロードマップ策定がなぜ必要なのかといった結論を導くために必要な背景です。
⑩ 道筋をロードマップという言葉に置き換えただけで、観点と課題が重複しているように感じます。また、問題にある「道筋」は、本業を発展させるための解決策と将来像を示すことです。技術導入の道筋では問いに対する的確な課題設定になっていないように感じます。
( 2 ) 最も重要な技術課題と理由
最重要課題:新技術の費用対効果向上
理由:他の2つの課題に取り組む際、新しい技術の経済的合理性は前提となる課題のため。
( 2 ) – 1 エネルギー効率の向上
新技術のエネルギー効率を高め、運用コストを削減する⑪。特に、大電力分野のパワエレ素子の変換効率向上は僅かな効率向上であっても運用コスト低減に直結する⑫。例えば、Si C やGa N 等の次世代半導体を用い、従来のシリコン半導体を使用したパワーコンディショナー( P C S ) 比で損失を10%削減⑬した製品を開発する。
⑪ 新技術が何なのか分からない中で、そのエネルギー効率を高めるといわれてもイメージできません。新技術はエネルギーを必要とするとも限らないですし、後述ではエネルギー効率を高める製品開発が例示されています。つまり、エネルギー効率を高める技術開発をすることが解決策なのではありませんか。
⑫ この例示もそうですが、エネルギー効率の向上という解決策は、費用対効果の向上と言えるのでしょうか。エネルギー効率を高めて運用コストを削減することは、効果ですよね。これを実現させる初期コスト(費用)が莫大であった場合、費用対効果は向上するどころか低下することも想定されます。つまり、この解決策は効果のみに言及しており、費用についての説明がないので費用対効果は向上するのかといった疑問が生じます。
⑬ ⑫と同じですね。費用に関する数字がない中で、なぜ10%なのか分からず、この10%で費用対効果が向上するのかも分かりません。
( 2 ) – 2 System on Chip(SoC)技術の活用
複数の機能を一つのICチップに集積化するSo C 技術を活用し、部品の点数を削減する。これにより、新技術を導入した製品の量産時の部品費用、実装コストを削減する⑭。また、従来のアナログ制御を実装したプリント基板からSoCに部分更新する場合は、耐ノイズ性の向上、小型・軽量化を実現できる⑮。
⑭ これも新技術が何なのか分かりません。また、書くべき解決策は、コスト削減ではなく費用対効果の向上です。
⑮ これは波及効果として書いているのでしょうか。このパラグラフは、費用対効果向上のための解決策というより、SoC技術の説明になってしまっています。きちんと、SoC技術と費用対効果の関係を明確にしないと論点がずれているように見えます。
( 2 ) – 3 状態空間モデルを活用した現代制御の導入
新技術を活用した電機製品や工場機器の制御において、P I D 制御などの古典制御ではなく、状態方程式や状態空間モデルに基づく現代制御を採用する。現代制御において位相余裕・ゲイン余裕の設計を適切に行うことで、高価な部品やセンサの追加なしで、より安定かつ高速な制御を実現する⑯。
⑯ これもこれまでと同じですね。費用対効果ですから、費用と効果のバランスを見なければ向上する施策になっているのか分かりません。今度は、効果だけになっています。状態方程式や状態空間モデルに基づく現代制御の採用にいくらかかって、センサなしでいくら削減されるのかといった説明があってやっと費用対効果が理解できます。
※ この課題を考える場合、技術開発の費用対効果、新技術を採用するために必要となるハード・ソフトウェアの開発の費用効果どちらであるのか整理した方がよいでしょう。また、費用対効果は、費用とコストのバランスの説明をしないと分からないのですが、その算出が結構大変です(現在価値化やベネフィットの貨幣価値換算など)。そういう意味で言うと、費用対効果を向上させるためには、このような試算を簡便にできるようにする仕組みも解決策の一つになりそうです。
( 3 ) 新たな懸念事項と対策
( 3 ) – 1 新たな懸念事項
( 2 ) の解決策には⑰、高度な技術により生産される部品や材料が必要である。特に次世代半導体のような部品は限られたメーカでしか製造できない場合がある。このため、そのメーカのトラブルや地政学的問題等により、予期せぬ供給停止や価格変動の懸念がある。
⑰ 電気電子部門はこの設問の聞き方が建設部門などと少し異なるので断定できませんが、新たな懸念事項はすべての解決策を実施しても生じるもの、つまり、特定のケースではなく、上記の解決の何をやってもダメといった懸念点とした方が良いと思います。例えば、開発の判断が価格偏重になり、社会的意義が高くても費用対効果が低いと開発されなくなり社会的な損失を招くといったものが考えられます。
( 3 ) – 2 対策
以下の①②の対策を並行して行う。
①複数サプライヤの確保:可能な限り地域を分散した複数のサプライヤを確保⑱し、供給停止リスクを低減する。
②代替部材の開発:特定の部材に依存しないように代替部材⑲の研究開発を促進する。
⑱ この確保ができる状況であれば、懸念事項ではないと感じてしまいます。
⑲ 代替できる可能性のあるものを例示した方が良いでしょう。このままですと一般論であり、専門性に欠けます。
( 4 ) 技術者としての倫理と社会の持続可能性
( 4 ) – 1 技術者としての倫理
公衆の安全を第一に考えることが要件である。新技術の導入にあたって安全性を最優先で確保する⑳。特に、次世代パワー半導体の安全性確認はサプライヤ任せでなく使用する機器メーカでも試験を行い確認する㉑。
( 4 ) – 2 技術者としての倫理㉒
新技術開発と導入にあたって長期的視点を持つことが要件である。費用対効果を考える際は導入時のコストだけでなく、保守および廃棄までを考えたライフサイクルコストを評価し環境負荷低減㉓に留意する。㉔
⑳ 同じことが繰り返し述べられています。
㉑ 聞かれていることは、確認事項ではありません。→「機器メーカでも確認することに留意する」
㉒ 前項と同じ見出しになっています。
㉓ ライフサイクルコストは、コストの話です。なぜ環境負荷軽減になるのですか。環境ならライフサイクルアセスメントですね。
㉔ 論文の最後には「以上」を書きましょう。