添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
恐ろしき病、その名は風邪
やっちまいました。この大切な時期に2日間も寝込んでしまいました。数年前にコロナを患ったことはありましたが、自分は基本的には風邪などはひかない人だと思っていました。大事な会議や打ち合わせを部下や上司にお願いし、大迷惑をかけたところです。
最近、急に熱くなったり、寒くなったりと寒暖差が激しく、体調を崩された方が多くいるのではないでしょうか。勉強をしているこの時期で体調を崩すと勉強できなくなってしまうので、要注意です。しかし、最も注意しなければいけないのは、試験当日に万全の体調で試験に臨むことに他なりません。
日々忙しくしてる中での勉強ですから、無理をする場面も多いと思います。しかし、睡眠不足や不規則な生活は、体調を崩す要因になるだけでなく、勉強の効率を落とすことにもつながります。眠い目をこすりながら、論文を書いてもミスが増えるばかりで良いことはないです。
そこでお勧めしたいのが、朝練です。朝起きてからの2〜3時間は「脳のゴールデンタイム」だそうです。確かに、思い返してみると午前中の論文添削は、キレッキレにはかどります。みなさんも早起きして、体調を整えるとともに朝練で効率よく勉強しましょう。
試験当日は、どこぞの大学が試験会場になることが多いのですが、空調が必要以上に効いており、とにかく寒いです。もちろん、会場にもよると思いますが、カーディガンやジャケットの用意をお忘れなきように!私は、試験当日の脳内は「寒い」でいっぱいでした。当然、集中できません…
試験当日に体調を崩したり、寒さで集中できなかったりでは後悔が目に見えます。ぜひとも、体調管理と事前の準備を怠らないようご注意ください。
論文
本日の添削LIVEは、令和6年度 建設部門 鋼構造及びコンクリート 選択科目Ⅲ「設計段階における維持管理への配慮」を完成まで一挙公開いたします。維持管理については、今年度もアツいです。必須科目Ⅰでは、一丁目一番地だと思います(ランキングはコチラ)。当然、選択科目でも出題されるkな王性が高いテーマの一つです。みなさんの選択した科目では、どのような視点で問われるのだろうと考えながら、読むのも良いと思います。それでは、早速論文を見ていきましょう。
「設計段階における維持管理への配慮」初稿
1. 維持管理上配慮しなければならない課題
(1) 点検困難箇所の解消
国交省資料(2023)によると、橋梁定期点検において全橋梁の約15%で近接目視が困難な箇所が存在する。特に、桁端部における狭隘部や死角となる箇所で、検査路が無く点検者の接近が難しい箇所がある①。しかし、道路橋点検では、道路法や基準に基づき近接目視点検(1回/5年)を実施する必要がある②。よって、アクセス性の観点③から、点検困難箇所の解消が課題である。
① 同じような内容を繰り返し述べているように見えます。スペースが限られているので、必要なことのみを端的に表現することが望まれます。例えば、「橋梁の狭隘部や死角など、検査路が無く近接目視による点検が困難な箇所が存在する」といった整理が考えられます。
② これは絶対的なルールではないのですが、課題のパラグラフは①現状→②問題点→③必要性(なくても可)→結論(観点・課題)の順で説明すると分かりやすくなります。この部分は、現状を表す内容であるため、最初に述べた方が良いと思います。→「道路橋点検では、道路法や基準に基づき近接目視点検(1回/5年)を実施しなければならない。しかし、橋梁の狭隘部や死角など、検査路が無く近接目視による点検が困難な箇所が存在する。」
③ アクセス性という観点は、どのような立場、視点なのか分かりづらいです。この場合は、メンテナンスのしやすさといった意味合いで「保守性の観点」としてはいかがでしょうか。
(2) 将来的な補修・補強工事を見据えた構造設計
橋梁の支承周り等の狭隘部では、作業空間が制限され、工事の品質確保が困難な状況にある④。狭隘部での作業者の動作制限や視認性低下により、下地処理不足や充填不良など、施工品質の不具合が発生している。このため、維持管理時の作業性を考慮した構造詳細の整備が必要である。よって、施工性の観点から、将来的な補修・補強工事を見据えた構造設計が課題である。
④ 最初の課題と視点が類似しています。違いは、点検か修繕かの違いでしかありません(同じ課題として書いた方が良いでしょう)。もっと多角的な視点が必要です。例えば、点群データによる3Dモデリング(BIM/CIM)など新技術に関する視点などが考えられます。見直した方が良いと思います。
(3) 環境条件に配慮した品質確保
国交省資料(2020年)によると、全国の道路橋のうち、約11%が海岸から500m以内に位置し、約25%が凍結防止剤散布地域に存在している。そのため、沿岸部のRC構造物の約30%で供用後30年以内に鉄筋腐食による劣化が顕在化している。構造物の長期供用性を確保するため⑤、建設時点での入念な耐久設計⑥が必要である。よって、耐久性の観点⑦から、環境条件に配慮した品質確保が課題である。
⑤ 供用性というと舗装の性能をイメージしてしまいます。前段の文脈から、シンプルに「早期の劣化を防止するため」としてはいかがでしょうか。
⑥ 耐久設計とは、新築する建物やその部分が使用できなくなるまでの年数を計画するではありませんか。ここで述べたいのは、耐久性を高めるための設計、耐久性向上対策、耐久性確保といったことではないでしょうか。
⑦ ⑥の修正をした場合、耐久性が繰り返されてしまうので、長寿命化の観点としてはどうでしょうか
2. 重要な課題選定と解決策
「環境条件に配慮した品質確保」は、長寿命化実現により更新時の交通規制等の社会的影響を抑制できると考え⑧、最も重要な課題と選定し、解決策を述べる。
⑧ 長寿命化するとなぜ、交通規制等が抑制できるのか理解できません。
(1)高耐久性材料の採用
100年後も鉄筋腐食を抑制するため、土木学会「高耐久性設計施工指針(2020年版)」に基づき高耐久材料を採用する⑨。具体的には、海上部の橋脚や飛沫帯に位置する床版下面、凍結防止剤の影響を受ける地際部など、塩害の影響を受けやすい部位に適用する。水セメント比50%以下の高強度コンクリートを基本とする。環境条件に応じて高炉スラグ微粉末(一般環境下40%、塩害環境下60%以上)を混和する。
⑨ 指針に基づくと書いてしまったら、ただルールに則った設計をしているに過ぎない印象を持ちます。さらに、鉄筋腐食を抑制するのは、コンクリート構造物を設計する上で当然のようにも感じます。つまり、解決策で述べている内容は設計で当然配慮すべき対応であり、維持管理を効率的に行うといった問題の条件を満たしているのか疑義があります。耐久性はコストを投じれば当然上がるわけで、耐久性とコストのバランスが必要なのではないでしょうか。いわゆるライフサイクルコストを計画設計段階できちんと検討することが、解決策になりえると考えます。これを書くかどうかは、別にしてこの解決策は見直した方がよいでしょう。
また、100年後と具体的な耐用年数を述べていますが、なぜ100年なのでしょうか。
(2)多重防護による耐久性確保
耐久性能の信頼性向上を目的に、環境条件に応じた多重防護を導入する。一次防護としてシラン・シロキサン系含浸材(含浸深さ10mm以上)、二次防護として柔軟型エポキシ樹脂系表面被覆工(膜厚0.5mm以上)を施す⑩。特に海上橋脚の飛沫帯、床版張出し部、桁端部、伸縮装置周辺、凍結防止剤散布区間の地際部など腐食環境が厳しい部位には、チタングリッド方式電気防食工法を追加する⑪。なお、表面被覆材の耐用年数が短い(10~15年)ため、ふっ素樹脂系材料の採用と15年ごとの塗替え⑫を維持管理計画に組み込む。
⑩ これは、多重防護に係る一つの例示ですよね。「例えば」を追記すると良いでしょう。また、ただ材料や工法を述べるのではなく、どのような効果があるのかも書きましょう。
⑪ なぜ追加するのか理由を書きましょう。
⑫ 耐用年数が10~15年と短いから、ふっ素樹脂系材料を採用するのに、その塗り替えが15年ごとではあまりメリットを感じません。もっと違う理由があるのですかね。
(3)環境モニタリングの実施
確実な予防保全を実現するため⑬、環境モニタリングを実施する⑭。構造物周辺の環境条件(塩分量、温湿度、CO₂濃度等)を常時計測する環境センサーと、構造物本体の変状を検知する光ファイバーセンサー(測定精度±0.1mm)を設置する。得られたデータはAIによる環境変動予測モデルで分析し、将来的な劣化予測を行う。特に点検が困難箇所(海上橋脚の飛沫帯、床版張出し部等)の現状把握や劣化診断・評価といった維持管理業務が容易となる⑮。
解決策(1)~(3) によるコスト増加は、LCC評価により補修回数低減効果を定量化し経済性を確保する⑯。
⑬ 環境条件に配慮した品質確保が課題なのですが、予防保全を実現するためという目的が品質確保といえるか疑義があります。
⑭ ⑬と同様に、モニタリングは品質が保たれているかを監視することであり、品質確保というより品質の維持(性能・機能維持)といった印象を持ちます。
⑮ この内容は最初の課題「点検困難箇所の解消」に該当するのではありませんか。選択した課題の解決策とずれが生じていませんか。
⑯ これは、すべての解決策に影響する内容にもかかわらず、(3)のパラグラフに書くことに違和感があります。⑨のとおり、一つの解決策として述べた方が良いと思います。
3.将来的な懸念事項とその対策
(1)専門技術者の不足
解決策の導入により、最新の維持管理技術に加えてAI・通信技術等の新たなスキルが必要となる⑰。そのため、AI・通信技術の専門技術者不足⑱のリスクがある。
対策として、土木研究所等の研究機関やAI・通信メーカーと連携した技術者育成プログラムを構築⑲する。
⑰ スキルが必要となるのは誰ですか。
⑱ 「維持管理技術に加えて」とあるので、AI・通信技術の専門技術者としていることに違和感があります。求める人材は、維持管理技術とAI・通信技術双方を兼ね備えた技術者ではありませんか。
⑲ ちょっと抽象的ですね。どんなプログラムなのか、なぜ連携するのか、なぜ研修などではなくプログラムの構築なのか。
(2)維持管理の続行不能
高度な技術システム⑳への依存により、システム障害時の代替手段不足で維持管理の継続性が損なわれるリスクがある。対策として、目視点検等の従来型点検との併用と、システム障害を想定した定期的な維持管理訓練を実施する。 以上
「設計段階における維持管理への配慮」チェックバック①
1. 維持管理上配慮しなければならない課題
(1) 点検困難箇所の解消
道路橋点検では、道路法や基準に基づき近接目視点検(1回/5年)を実施しなければならない①。しかし、橋梁の狭隘部や死角など、検査路が無く近接目視による点検が困難な箇所が存在する。これにより、点検が不十分となり、ひび割れや鉄筋腐食等の潜在的な劣化が見逃される恐れがある。よって、保守性の観点から、点検困難箇所の解消が課題である。
① 基準という表現が抽象的です。道路法施行規則のことを言っているのですかね。具体的に書きましょう。また、道路法には「努めなければならない」、規則では「五年に一回の頻度で行うことを基本とすること」といった表現であり、「しなければならない」との表現が適切なのか疑義があります。
(2)3Dレーザースキャナを用いた点群計測
コンクリート構造物のひび割れ損傷図は手描きによるスケッチ管理が主流である。しかし、この手法では大量にある既存構造物の情報取得②に時間を要し、診断結果に基づく補修要否等の意思決定が迅速にできずに劣化進行を見逃す恐れがある③。そのため、短時間で多くの損傷情報を正確に把握する必要がある。よって、新技術の観点④から、3Dレーザースキャナを用いた点群計測が課題⑤である。
② →「情報収集」
③ 時間がかかることと見逃すことは別問題だと思います。時間がかかることを要因とする問題は、劣化が進行することではありませんか。
→「劣化が進行する恐れがある」
④ 文脈らするに、観点は「迅速性」としてはいかがでしょうか。
⑤ 背景は、損傷個所の把握がスケッチで時間がかかる何ですよね。それなのに、点群計測では測量の話になっています。背景を踏まえた課題を書きましょう。この場合は、「画像認識AIによる損傷診断の導入が課題」といったことが考えられます。
(3) 環境条件に配慮した品質確保
国交省資料(2020年)によると、道路橋のうち約11%が海岸から500m以内に位置し、約25%が凍結防止剤散布地域に存在している。そのため、沿岸部のRC構造物の約30%で供用後30年以内に鉄筋腐食による劣化が顕在化している。構造物の早期劣化を防止するため、建設時点での入念な耐久性確保が必要である⑥。よって、長寿命化の観点から、環境条件に配慮した品質確保が課題である。
⑥ 言っていることは間違いではないのですが、どうしても当たり前の指摘に見えてしまいます。もっと、前述の流れを汲んだ必要性を記述した方が良いですね。
→「このため、画一的な構造仕様ではなく、立地特性に応じた耐久力の強化が求められている」
2. 重要な課題選定と解決策
「環境条件に配慮した品質確保」は、長寿命化実現の結果、更新頻度を減らすことで交通規制等、社会的影響を抑制できると考え⑦、最も重要な課題と選定する。
⑦ 「コスト削減効果に加え、更新のための交通規制など社会的損失も小さくできるなど幅広い効果が期待できるため、」
(1)ライフサイクルコスト(LCC)の最適化
財源の有効活用ため⑧、コンクリート構造物の環境条件に応じてLCCの最適化を図る。維持管理性を考慮し、初期費用や維持管理費用といったLCCのバランスを取る⑨。例えば、重要度の高いトンネルには、高耐久性防水材となるポリウレタン系防水材を使用することで、浸水による早期劣化を防ぎ、長期的な維持管理費用が約20%削減できる。但し、LCC検討時、引用データが不正確な場合⑩、安全性が低下するため、維持管理技術者の知見を取入れ、分析結果の妥当性⑪を確認する。
⑧ 有効活用するのは当たりまえですので、「公共投資の効果を最大化するため」としてはどうでしょうか。
⑨ 「性」不要。また、バランスととるとは、何と何のバランをとるのですか。バランスではなく、イニシャル・ランニングのトータルコストが最小になる状態を最適化としているのではありませんか。表現に違和感があります。
⑩ すべてが抽象的でどのような場合なのか分かりません。引用データとは何のデータですか、不正確な場合とはどのような状況でなぜ不正確となるのかといったことが分からず、主張に説得力がありません。
⑪ これも⑩と同様抽象的です。知見とは、分析とは、どれも判然としません。ここが技術力の見せどころです。専門的な用語を用いて具体的に書きましょう。
(2)環境モニタリングの実施
構造物の劣化予測精度向上を図るため、環境モニタリングを実施する。構造物周辺の環境条件(塩分量、温湿度、CO₂濃度等)を常時計測する環境センサーと、構造物本体の変状を検知する光ファイバーセンサーを設置する。得られたデータはAIによる環境変動予測モデルで分析し、将来的な劣化予測を行う⑫。特に点検が困難な海上橋脚の飛沫帯や床版張出し部において、品質確保が図れる⑬。また、早期の劣化発見により、補修コストを約15%削減できる(JCI指針)。
⑫ 「得られたデータは、・・・予測を行う」となっており、主語述語がおかしいですね。
→「これらセンサーから得られたデータを用いて、構造物の劣化予測を行う。予測に当たっては、環境変動予測モデルを活用しAIによりデータを分析する。」
⑬ モニタリングしても、状況が分かるだけであって、品質が確保されると言えるのでしょうか。品質確保というより、劣化を見逃さないといった効果が期待されるのではありませんか。
(3)多重防護による耐久性確保
耐久性能の信頼性向上のため、環境条件に応じた多重防護を導入する。例えば、非常に厳しい環境下となる凍結防止剤散布区間の橋梁床板において、一次防護としてシラン・シロキサン系含浸材(含浸深さ10mm以上)を施す。二次防護として柔軟型エポキシ樹脂系表面被覆工(膜厚0.5mm以上)を適用する。これにより水分・塩分の侵入を防ぎ、過酷な環境下でもコンクリートの劣化を抑制し、品質を確保する⑭。なお、表面被覆材の耐用年数は約15年であるため、補修効果に応じて⑮塗替えを維持管理計画に組込み長寿命化を図る。
⑭ 一次防護と二次防護の効果は、それぞれ同じなのでしょうか。多重化させるのは、どちらかがダメになってももう一方の効果で劣化を防ぐということなのでしょうか。やることと結果だけが記載されており、行動の目的がいまいちはっきりとしないです(最初に記載のある信頼性の向上だけですとおピンときません)。
⑮ これもよく分かりません。耐用年数が15年であるならば、15年ごとの塗り替えを計画すれば良いのではないですか、「補修効果に応じて」とはどのような判断なのでしょうか。
3.将来的な懸念事項とその対策
(1)専門技術者の不足
維持管理者は最新の維持管理技術に加えてAI・通信技術等の新たなスキルが必要となる。そのため、維持管理技術とAI・通信技術を兼ね備えた技術者が不足する懸念がある。対策として、最新技術を習得・更新するため、土木研究機関やAI・通信メーカーと連携した研修を行い⑯、上記技術者を育成する。
⑯ 連携して研修を行うというより、「連携して研修プログラムを開発したうえで」としてはいかがでしょうか。
(2)維持管理の継続不能
環境モニタリングの依存により、システム障害時の代替不足で維持管理の継続が不能となる懸念がある⑰。対策として、目視による従来点検との併用と、システム障害を想定した緊急訓練を定期的に実施する。以上
⑰ まず、表現が分かりづらいです。システム障害児の代替不足とはいったい何を言いたいのでしょうか。そもそも、環境モニタリングとは、状態を監視・追跡するための観測や調査のことですよね。システム障害が生じた場合は、状態の把握できなくなるだけで、維持管理そのものが継続できないとした理由は何なのでしょうか。状況と結論が結びつきません。
「設計段階における維持管理への配慮」完成
1. 維持管理上配慮しなければならない課題
(1) 点検困難箇所の解消
道路橋点検では、道路法施行規則に基づき、5年に1回の近接目視点検を基本として実施するとこが定められている。しかし、橋梁の狭隘部や死角など、検査路が無く近接目視による点検が困難な箇所が存在する。これにより、点検が不十分となり、ひび割れや鉄筋腐食等の潜在的な劣化が見逃される恐れがある。よって、保守性の観点から、点検困難箇所の解消が課題である。
(2)画像認識AIによる損傷診断技術の導入
コンクリート構造物のひび割れ損傷図は、主にスケッチにより作成される。しかし、この手法では、数多く存在する既存構造物の情報収集に時間を要し、診断と補修要否等の意思決定が遅れ、劣化が進行する恐れがある。そのため、短時間で多くの損傷情報を正確に把握する必要がある。よって、迅速性の観点から、画像認識AIによる損傷診断技術の導入が課題である。
(3) 環境条件に配慮した品質確保
国交省資料(2020年)によると道路橋の内、約11%が海岸から500m以内に位置し、約25%が凍結防止剤散布地域に存在する。その結果、沿岸構造物の約30%で供用後30年以内に鋼材の腐食劣化が顕在化している。このため、画一的な構造仕様ではなく、立地特性に応じた耐久性強化が求められる。よって、長寿命化の観点から、環境条件に配慮した品質確保が課題である。
2. 重要な課題選定と解決策
維持管理費の削減に加え、更新のための交通規制等、社会的損失の最小化にも効果があると考え、「環境条件に配慮した品質確保」を最も重要な課題に選定する。
(1)ライフサイクルコスト(LCC)の最適化
公共投資の効果を最大化するため、コンクリート構造物の環境条件に応じてLCCの最適化を図る。初期費用と維持管理費用のトータルコストが最小となる設計・維持管理計画を立案する。例えば、重要度の高いトンネルには、高耐久性防水材となるポリウレタン系防水材を使用することで、浸水による早期劣化を防ぎ、長期的な維持管理費用が約20%削減できる。
(2)環境モニタリングの実施
構造物の劣化予測精度向上を図るため、環境モニタリングを計画する。構造物周辺の環境条件(塩分量、CO₂濃度等)を常時計測する環境センサーと構造物変状を検知する光ファイバーセンサーを設置する。これらのセンサーから得られたデータを用いて、劣化予測する。予測は、環境予測モデルを活用しAIにより行う。特に点検が困難な海上橋脚の飛沫帯や床版部において、早期の劣化兆候を検知することで、重大損傷に至る前の予防保全を効率化できる。早期の劣化発見により、補修コストを約15%削減できる(JCI指針)。
(3)多重防護による耐久性確保
耐久性能の信頼性向上のため、環境条件に応じた多重防護を導入する。例えば、非常に厳しい環境下となる凍結防止剤散布区間の橋梁床板において、一次防護としてシラン系含浸材(含浸深さ10mm以上)を施し、コンクリート内部への水分・塩分浸透を抑制する。二次防護として柔軟型エポキシ樹脂系表面被覆工(膜厚0.5mm以上)を適用し、表面からの劣化因子の侵入を遮断する。その結果、どちらかの防護機能が機能することで、過酷な環境下でも確実な延命化が期待できる。
3.将来的な懸念事項とその対策
(1)専門技術者の不足
維持管理者は維持管理技術に加えてAI・通信技術等のスキルが必要となるため、維持管理技術とAI・通信技術を兼ね備えた技術者が不足する懸念がある。対策として、最新技術を習得するため、土木研究機関やAI・通信メーカーと連携した研修プログラムを開発する。その上で定期的な技術講習を実施し、非破壊点検技術と解析技術との複合的スキルを習得する。
(2)センサー埋設部の品質低下
センサー埋設により構造物新設時、コンクリート充填不良が生じ、局所的な水セメント比増加や空隙形成で中性化・塩害が促進される懸念がある。対策として、重要部位は、高流動コンクリート(スランプフロー65cm以上)の採用によるセンサー周囲の緻密化処理を行う。その結果、センサー周辺の充填性が確保され、CO2・塩化物イオンの侵入を確実に抑制できる。以上