添削LIVE
【 技術士 二次試験対策 】
維持管理の論文は「制度 × 技術 × 論理」で決まる
インフラ維持管理の高度化は、技術士二次試験(必須科目Ⅰ)で頻出のテーマです。しかし、実際に答案を書いてみると、「論理が浅い」「専門性が伝わらない」「説明が飛躍している」といった指摘を受けやすい分野でもあります。
今回は、添削論文を参考に、みなさんが押さえておくべき注意ポイントを体系的にまとめます。
課題設定は「理由の明確化」が最重要
維持管理の論文では、課題設定の甘さが最も多い指摘ポイントです。
例えば文書には「初期費用やデータ整備、人材育成の負担は自治体で大きく異なる」とありますが、なぜ異なるのかという構造的要因が示されていないと指摘されています。
これは多くの受験生に共通する課題で、
- 財政規模
- 技術者数
- 委託率
- 管理施設の量
など、差を生む要因を具体的に示すことが求められます。
「地域差があるから地域差をなくす」といった循環論法は避け、
現状 → 問題 → 必要性 → 課題(結論)
という“山登り構造”で書くことが大切です。
専門用語は「定義」と「対象」を明確に
文書では、
- 「採算性の不透明さ」
- 「点検基準が異なる」
- 「クラウド型DXサービス」
などの表現が「対象が曖昧」と指摘されています。
技術士論文では、専門用語を使うほど説明責任が増すため、
- 何の採算性か
- どの施設の点検基準か
- どの機能をクラウド化するのか
を明確にする必要があります。
抽象語を並べると「良さそうなことを書いただけ」に見えてしまうため、
“何を・なぜ・どのように”をセットで書くことが重要です。
データ・基準・制度の扱いは正確に
文書には「自治体ごとに点検基準が異なる」と書かれていましたが、指摘では
「国交省が全国統一の点検要領を示しており、完全にバラバラではない」
とあります。
維持管理分野は制度が細かく整備されているため、
制度の理解不足は一気に説得力を失う原因になります。
例えば、
- 橋梁 → 近接目視+健全度評価
- 下水道 → 劣化度評価+LCC
- 河川施設 → 性能照査型維持管理
など、施設種別で制度が異なる点を押さえておくと、論文の精度が上がります。
因果関係を「飛躍させない」
文書では、
「クラウド化すると広域連携が容易になる」
と書かれていましたが、指摘では
「なぜそうなるのか説明がない」
とされています。
これは多くの受験生が陥る典型例で、
“AだからB”の間に説明がないと論理が飛躍して見えます。
例えば、
- データ形式が統一される
- API仕様が共通化される
- 同一プラットフォームを利用する
といった“つながり”を示すことで、論理が滑らかになります。
解決策は「行動レベル」で書く
解決策の段落でよくあるのが、
- 「有効である」
- 「可能となる」
といった“評価語”で終わってしまうパターンです。
文書でも「何をどう行うのかが書かれていない」と指摘されています。
解決策は、
誰が・何を・どの制度を使って・どのように実施するか
まで書いて初めて“行動”になります。
例:
×「DXを推進する」
○「国がLOD・API仕様を標準化し、自治体は共通パッケージを利用して点検データを統一形式で蓄積する」
科学的評価・予測モデルは「具体性」が必要
文書には「科学的に評価する手法の整備」とありましたが、指摘では
「科学的とは何かが説明されていない」
とされています。
維持管理分野では、
- 劣化予測モデル
- 時系列解析
- センサーデータの回帰分析
- 性能照査
など、具体的な技術が存在します。
抽象語ではなく、どの技術を指しているのかを示すことで、専門性が一段上がります。
DX・クラウド・標準化は「キーワード羅列」に注意
DX関連の答案で最も多いのが、
キーワードを並べただけで説明が伴わない
という指摘です。
文書でも、
- 専用ソフト
- クラウド型DXサービス
- 統一環境
- 同一基盤
などが「何を指すのか不明」とされています。
DXは便利な言葉ですが、
“何をどう改善するのか”を説明しないと評価されません。
維持管理の高度化
【問題文】
(1)人口減少やインフラ老朽化の進行、加えて維持管理を担う技術者不足により、従来型の点検・補修を中心とした維持管理手法の限界が顕在化してきている。このような状況を踏まえ、インフラ維持管理の高度化を推進するにあたり、技術者としての立場で多面的な観点から3つの技術課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その技術課題の内容を示せ。
なお、本設問における技術課題には、建設業における構造上、制度上、管理上等の課題も含まれるものとする。
(2)前問(1)で抽出した技術課題のうち、最も重要と考える技術課題を1つ挙げ、その技術課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示した解決策に関連して、新たに浮かび上がってくる将来的な懸念事項とそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)~(3)の業務遂行において必要な要件を、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から述べよ。
(1)技術課題
①地域差なくDXを活用できる運用体制の構築
3DモデルやBIM等のDX技術は、インフラの状態把握や将来予測に有効であるが、初期費用、データ整備、人材育成の負担は自治体で大きく異なる①。このため、技術者数やデータ整備状況の差により②、導入格差を生んでいる。よって、体制面の観点から、地域差なくDXを活用できる運用体制を構築することが技術課題である③。
① なぜ異なるのか、どの構造的要因が差を生むのか、財政規模?人口?技術者数?委託率?といった説明が一切ありません。理由を添えないと主観的な主張と評価されてしまいます。
② 「このため」と書いた直後に、別の理由を追加しており、論理が二重化しています。どちらが主因なのか、どちらが従因なのか、同じことを言い換えているだけなのかが不明です。
③ 「地域差があるから、地域差をなくす」は、論理が前に進んでおらず、当然の帰結です。これでは同じ説明を何度もしているように見えます。また、「体制面の観点」なのに、課題も「体制構築」になっており、観点と課題が同じになっています。観点は、課題の上位概念です。
②点検基準・データ仕様の標準化
自治体ごとに点検基準やデータ形式が異なる④ため、取得データの比較や連携が困難である。このため、施設横断で更新需要を評価⑤することが制度的に行いにくい。このような中、自治体間で共通に利用できる基準を整備⑥し、データの互換性と比較可能性を確保することが必要である。よって、制度面の観点から、点検基準・データ仕様の標準化が技術課題である。
④ 「自治体ごとに点検基準やデータ形式が異なる」と断定しているが、事実として不正確ではありませんか。国交省は点検要領・診断基準を全国に示しています。多くの自治体はそれをベースにしているので、完全にバラバラではありません(一部の施設種別では標準化が進んでいる(橋梁、トンネルなど))。
⑤ それっぽい表現ですが、何を意味するのか曖昧です。施設横断とは何を指すのか、道路・河川・下水道などの複数分野?それとも同一自治体内の複数施設?更新需要とは何を指すのか、更新時期?更新費用?更新優先度?全く分かりません。さらに、なぜ「施設横断で評価」する必要があるのかも全く説明されていません。
⑥ データ互換性の話をしているのに、急に「基準整備」が出てきて論理が飛躍しています。おそらく、何の基準なのかが分からないからですね。
⑦ 結論も、「基準を整備し、データの互換性と比較可能性を確保することが必要」という前述の説明と重複しており、同じことを繰り返し説明しています。
③更新時期を科学的に評価する手法の整備
インフラの劣化進行は構造形式や環境条件で大きく異なるが、従来の点検ではこうした特性を十分に反映できず、劣化兆候の早期把握が難しい⑧。このため、更新時期の判断は経験的判断に依存しがち⑨である。したがって、実効性ある予防保全には劣化進行の定量的把握が必要である。よって、技術面の観点から、更新時期を科学的に評価する手法の整備⑩が技術課題である。
⑧ なぜ反映できないのかが説明されていません。点検周期が固定だから?点検項目が劣化メカニズムに対応していないから?記録粒度が粗いから?点検者の主観が入るから?理由が曖昧なまま「反映できない」と断定するのは危険です。
⑨ 事実としては自治体や施設種別で大きく異なります。橋梁は健全度Ⅲ→Ⅳで更新判断、下水道は劣化度評価+LCC、河川施設は性能照査型維持管理が導入されつつあります。つまり、「経験に依存しがち」と言い切るのは不正確です。本来は、一部の施設では経験依存が残る、データに基づく更新判断が十分に普及していない分野があるなど、トーンを落とした方が良いでしょう。
⑩ “科学的に評価する手法”が抽象的です。科学的とは何か?劣化予測モデル?健全度の時系列解析?センサーデータの回帰分析?破壊メカニズムに基づく性能照査?本文では一切触れられていません。も少し、踏み込んだ課題設定が望まれます。
(2)最も重要な技術課題とその解決策
維持管理の効率化に直結し、他の取組みの効果も高める横断的な課題であるため、①地域差なくDXを活用できる運用体制の構築を最も重要な技術課題として、以下に解決策を述べる。
①DX技術のパッケージ化・標準化
地域差を解消するため⑪、国主導⑫でデータ形式、LOD、API仕様のデータレイヤーを標準化し、互換性を確保する。さらに、点検・予測解析アプリ⑬と更新手順や権限管理等の運用ルールを統合した共通パッケージを整備し、自治体がそのまま利用できる形で提供する⑭。これにより、自治体は要件定義やシステム選定の負担を軽減でき、導入格差の縮小につながる⑰。
⑪ これは課題の言い換えであり、解決策固有の目的ではありません。なぜパッケージ化が必要なのか、何を解決するための手段なのかという“固有の目的”が必要です。
⑫ 「国主導」という受動的に見えます。書かなくても良いと思います。
⑬ 「点検・予測解析アプリ」→ 何の点検?何の予測?なのかが不明です。
⑭ 「何を提供するのか」が曖昧です。文章には、データ形式、LOD、API仕様、アプリ、更新手順、権限管理、運用ルールが一文に詰め込まれており、結局何を提供するのかがぼやけています。
⑰ 「導入格差の縮小につながる」→ 目的と同じで当然の帰結になっています。
②クラウド型DXサービスの活用
専用ソフト⑱を自治体ごとで保有せず、クラウド型DXサービス⑲を活用する。これにより初期投資・運用負担を抑制⑳しつつ、必要な時に高性能な計算リソース㉑を利用して点群データの処理や劣化予測解析を実施できる。また、国が統一環境㉒を提供することで、複数自治体が同一基盤㉓を共同利用でき、データ連携や広域的な維持管理㉔が容易となる。
⑱ 「専用ソフト」が何を指すのか不明です。対象が曖昧すぎて、読み手は「何をクラウド化するのか」理解できません。
⑲ 「クラウド型DXサービス」も抽象語で、具体的に何を指すのか不明です。
⑳ クラウド化がコスト削減につながるのは一般論ですが、説明がないため、単なる主観的な“良さそうなこと”の羅列に見えます。
㉑ 高性能な計算リソース」→ 何の計算か不明です。
㉒ 「国が統一環境を提供」→ 何の環境か不明です。
㉓ 「同一基盤」も不明確で、何を共有するのか分かりません。
㉔ 「データ連携」「広域的維持管理」が唐突で、論理が飛躍しています。なぜクラウド化すると広域連携が容易になるのか?データ形式が統一されるから?同じシステムを使うから?APIが共通だから?説明がないため、論理がつながっていません。このパラグラフは、総じて説明不足で曖昧です。これでは、何も説明していないのと同じです。キーワードに頼るのではなく、論理的な説明を心掛けましょう。
③研修・伴走支援の一体的提供
DX関連業務について、国が標準的な業務フローを体系化した研修プログラムを整備し、共通の基礎スキルを習得できる環境を構築する㉕。さらに、導入初期には専門事業者が伴走支援を行い㉖、各自治体の実務フロー調整やデータ更新作業を実地指導することで、運用の定着化を図る㉗。さらに、業務フローにおける役割分担を文書化して組織で共有することで、属人化を防ぎ㉘継続的にDXを活用できる体制を確保する。
㉕ 課題が「運用体制(制度・役割・ルール・仕組み)の構築」なのに、解決策が“教育施策”にすり替わっています。また、「業務フローを体系化した研修プログラム」→ 業務フロー自体が“体系化”ではありませんか。言いたいことは、研修プログラムを体系化ですかね。
㉖ これも受動的に見えます。また、「専門事業者」という表現が曖昧すぎて、何でも当てはまってしまうような内容です。
㉗ DXのどの機能の運用?データ更新?点検記録?劣化予測?システム操作?対象が書かれていないため、何を定着させるのか分かりません。
㉘ 属人化を防ぐには、業務の標準化、業務フローのほかにも、権限管理、データ更新ルール、代替要員の確保など複数の要素が必要であり、文書化だけでは属人化は防げません。
(3)将来的な懸念事項とそれへの対策
国主導で標準仕様、業務フロー、クラウド基盤を整備することで、自治体の運用がこれらに強く依存し、独自の改善や柔軟な運用が困難となる懸念がある。国の更新が遅れた場合、全国的に一斉に陳腐化するリスクも生じる㉚。対応策として、標準仕様やパッケージを複数ベンダーが実装可能なオープン仕様とし、自治体が自由に選択できる環境を整備する㉛。また、自治体自身が改善提案や設定変更を行える管理機能を設け、国の更新に依存しない運用を可能とする。
㉚ これでは自分の示した解決策を自分で否定しているようなものです。解決策に共通する副作用を書くべきです。副作用が「国の更新遅延」という“国の問題”にすり替わっています。本来は自治体側の副作用を書くべきではありませんか。
㉛ 「自治体が自由に選択できる環境」→ ①のパッケージ化と矛盾しています。パッケージ化は“統一”が目的なのに、ここでは“自由に選択”と言っており、方向性が逆になっており違和感があります。
(4)業務遂行に必要な要件
倫理の観点では、点群処理や劣化予測AI等を導入する際、住民・議会・庁内関係者に対して意思決定の根拠やリスクを明確に説明し、透明性と説明責任を確保する㉜。また、維持管理DXは行政サービスや財政運営に直結するため、関係者の意見を踏まえた合意形成を重視する姿勢が要件㉝となる。社会の持続性の観点では、導入後もデータ更新や運用改善を継続し、環境負荷低減㉞や資産の長寿命化に資する形でDXを活用し続ける体制を維持することが要件である。㉟
㉜ 倫理の最重要要素である「公益・安全の確保」が書かれていないことが気になります。また、「説明責任=倫理」と短絡しており、倫理の範囲が狭すぎます。
㉝ 「合意形成を重視する姿勢が要件となる」→ 倫理ではなく“態度論”になっています。もっと、デジタル技術特有のリスクである「AIの誤判定・データ欠損・モデルの限界」などの“技術的リスク”に触れると良いでしょう。
㉞ サステナビリティの本質ではなく、DX運用の話にすり替わっています。また、なぜ環境負荷の低減につながるのか因果関係が示されておらず、論理が飛躍しています。
㉟ 論文の最後には「以上」を書きましょう。

